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愛道局

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怒りは快感を伴って



 世間では所得格差が広がっているらしい。それは当然色々な面の格差に表れてくるのは当然である。勝ち組、負け組という言葉を聞いてからだって久しい。どうやら政府は勝手にやってちょうだいということらしい。
 当然俺は負け組に入るのか、という自覚はあったが、山本は自分が負けたとは思わない。
それは清々しいほどに自分が汚れにまみれていないという感覚もあって、胸を張って歩いている。あなた見えますか、私の周りにオーラが、と通りかかった人々に聞いてみたいような気だってしてくる。

 ついに、愛道局から【停止のお知らせ】が届いた。ボランティアは止めてしまっている。どうしてもしてあげたいというのではなく、中途半端な同情もそらぞらしく感じたからだ。召集令状もこない。前回と間が近すぎて間に合わないということだろう。
「ふん、愛なんて余るほど持ってるさ」
 山本は、その知らせをビリビリと破いて捨てた。また少し自分から汚れが落ちて、一歩神に近づいたような気分だった。さしあたって時間はいっぱいあった。さて何をしようかと思い、もうすぐ家賃の振り込みをせねばならぬのに気づいた。


 つい何分か前に神に近づいた山本だったが、身体のオーラがしぼんで行くのを感じた。
今までなんとかお金のやり繰りをしてきたのだが、定期的な仕事では足りない。春は不定期なものが次々と入ってくるのだが、夏になってピタリとこなくなった。最悪の結果が頭に浮かぶ。そう言えば、と山本は以前テレビでみたレポーターの言葉が思い出された。ホームレスの取材をしていて、どうして仕事をしないでこんなことをしているんでしょうと、嫌悪感を表しながら言ったのだ。自分がずっと恵まれた生活をしてきたものだから、自分が彼らのようになる可能性のひとかけらも想像できないのだ。景気が上向いてきていますと政府は言っているが、それは弱い人を切り捨てて残った者たちの話のことだ。自分達が頑張ったせいでも無いのに偉そうに言う。少しずつ腹の立つことを思い出した。

 妻が亡くなって、それまで三十年近く払い続けた国民年金が、わずかの一時金でお終いだっだ。くそっ。 
(あれっ、何だこの快感を伴う予感めいた感じは)山本は自分の感覚に自分で驚くという不思議な思いにとまどった。それは何かを大きなものを壊してしまいたいという思いと、身を投げ出して全身を何かにまみれてしまいたいという思いだった。それは生まれてからずっと持っていて、封印されていたような気もする。汚れを気にしないで泥水の中に飛び込み、寝ころんで身体を目一杯あちこち動かして大きな声を出す。そんな感覚なのだが、そんな子供じみたことではないもっと大きなことを自分が欲していることを知った。頭のどこかでそんなことは想像だけにしておけよと言っている。

作品名:愛道局 作家名:伊達梁川