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愛道局

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浄愛場



 山本は取愛センターの一日を思い出してみる。あのとき自分の感情に軽い嫌悪感を覚えたり、体の中の悪いものをすっかり吐き出したような爽快感を味わったが、もう結構という感じもするし、もう一度あの感覚を味わいたいという思いもあった。しかし、取愛センターは最低半年は間をあけて招集されるらしい。それは慣れからくる感情の発露の低下が理由である。センターからみれば効率が悪くなるので当然だろう。それと引き換えという訳ではないだろうが、希望して、書類審査にパスすれば浄愛場の見学をすることができるという。それは興味のあることだったので、山本は申し込みをした。


 その日集まったのは七人だった。どうやらそれが見学コースの定員らしい。山本は目の前の頑丈な柵状のフェンスと受付小屋、さらに奥の入口両脇に立っている守衛に、ここは刑務所のようだと思った。しかし見える範囲には大きな建物は見えず、こんもりとした緑が見えて大きな公園のようにも思えた。すでに気分をリラックスさせるような匂いが流れ出しているのも感じる。
 時間になってフェンスの一部が開けられた。そして受付で名前を確認されて前へ進んだ。
「本日は、当浄愛場の見学コースに参加いただきまして有難うございます。私、長谷川が案内させていただきます。よろしくお願いします」


 山本はその女性の姿を見とれてしまった。仏像と年齢不詳という言葉が頭に浮かんだ。肌は二十代のようであり、気品ある雰囲気は四十ぐらいにも思えた。柔らかくて芯のある声にも惹かれた。さっきまで仲間と話をしていた他の参加者も山本と同じようにその女性のとりこになっているのだろう。保母の話を聞く園児のようにうなづきながら歩いた。ハーイと返事をしながら後について歩く男もいる。山本はその男に見覚えがあった。えーとどこであったかなとしばらく歩いていて、やっとその男が取愛センターで一方的に話しかけてきた格言男だと分かった。あの時と違って今日は小ざっぱりした服装だし、大人しいので分からなかった。表情もシニカルな表情から柔和な顔になっている。
 梅雨がまだ明けてなかったが、薄暗く感じる大木の下は涼しかった。道の両側には山本の知らない樹木が濃密な酸素を吐き出しているのを感じる。ところどころに花を咲かせている木もある。
「ここが第一浄化ブロックです」
 長谷川女史と山本が勝手にそう呼ぶことにした女性はガラス張りの大きな温室のような建物を指差した。中は丁度今の梅雨空のように曇っていてよく見えなかった。かすかに小川のようなものが見えた。
「ここは石油でいうところの原油です。色々なところで集められた気が、濾過されたり、中和されたりして最後には愛になります」
 まるで小さな子供をみるような慈しみの表情で長谷川女史は説明をしている。山本もそしてあの格言男も、建物よりも長谷川女史に見とれている。
 見学者達はまた歩き出した。温室のような建物はかなり長く、その建物にそって三分ほど歩いただろうか、まだ細長く建物は続いていた。

作品名:愛道局 作家名:伊達梁川