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数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~

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《第一幕》最北の村


 吹雪の中、雪を踏む音が、ざす、ざす、と聞こえる。
 身を寄せ合いながら進むのは、十代中盤から後半あたりの少年と少女。
 少年の方は、すこしクセのある黒髪、黒い目で、腰には剣を、両手には手甲をはめている。防寒対策のされていない、旅用の安い服の上から、ボロ布のようなローブを羽織り、その上からさらに、防寒対策として厚手のコートを着ている。
 少女の方は、さらさらの金髪、髪と同じ金の色をした左目に対し、右の瞳は燃えるように赤い。武器や、防具のような物は身に着けておらず、手にも大きな荷物は持っていない。服装の特徴としては、ローブに多くのポケットが縫い付けられていることだろう。
 少年は名をローレンツといい、少女はミリアという。
 彼らが今目指しているのは、軍事大国ノーベル最北端の村、セルシウスだ。
 こんなことになった原因は、先月まで遡る。
 先月と言えば、ノーベルの首都、<砂の王都>とあだ名されるダランベールが、ロピタルの攻撃にあったという話が記憶に新しいだろう。
 何を隠そう彼らは、ダランベールに起こるはずだった大災害を、非常に軽度なものへと変えた張本人なのである。
 しかし、ダランベールが災害に襲われたというのも事実である。そのことを考えた彼らは、復興の協力を王に申し出るが、王は曰く、
「主らの力は、復興のために燻らせて良いものではない。その力は、ロピタルに対抗するためにある。もし、復興に協力したいと申すのならば、ロピタルを止めてから頼む」
 だそうだ。
 その言葉を受けた二人は、ダランベールを出、北へ北へと上がっていき、ついにロピタルが襲ってくるであろうと予測される、セルシウスの村を目前にしていた。
 ミリアは初めて見る雪景色に最初の頃こそはしゃいでいたが、今はもう雪の持つ冷たさの方が先に立ってしまい、はしゃぐ気を無くしているようだ。
 本当はジュールの数式を弱く使うことで、寒さを凌ぐことが可能なのだが、雪山においてそれを行うと雪崩を誘発するかもしれないため、使用を控えている。そのことが余計に、彼女の気力を削いでいる様でもあるのだが。
 先行するローレンツは、しばらく前にセルシウスに来たことがある。そもそもローレンツは、ロピタルの軌道を先読みするべく、大陸中を一度回っているのだ。慣れた足取りで、雪を踏み進む。
 すると、雪の中からジャベリンペンギンが突如襲い掛かってきた。
 投げ槍の如き強襲に対し、二人は冷静に応える。
「ミリア」
「うん。――"アトム"!」
 ミリアが言葉を紡ぐと、ローブに付いたポッケのひとつが、淡い燐光を放った。
 各ポケットの中には金属製の数式符、プレートと呼ばれる物がひとつ入っている。その全てには数式が書き込まれており、もちろん、発動キーも同じように書かれている。
 発動キーは数式名の読み上げ。
 彼女はこれに追加で、発動の際に使用者の手のひらのベクトルを数式符に与え、それによって数式符を取り出すことなく使えるようにした。
 これが、彼女の最近作った"戦い方(スタイル)"だ。
 今までのいちいち書いては使い捨てるスタイルに比べ、速度、利便性が高く、応用も利く。
 唯一の欠点は、ポケットの数に限りがあることだが、それに対しては紙の数式符、ブレークを用いればよいのだ。
 彼女に適した、彼女らしい戦い方である。
 数式が発動したことにより、空気が割れ、壁が生じた。
 衝突音。
 ペンギンは壁にぶつかり、もんどりうって雪上へと転がる。
 そこに、刃が白く走った。
 ローレンツが剣を抜き、斬り伏せたのだ。
 一匹を仕留めると、近くまで迫っていたペンギンたちは引き返し始めた。
 ジャベリンペンギンは、一番槍がやられると、その時点でその獲物は危険だと判断し、目標を変えるという性質がある。そのことを利用した、的確な戦い方だ。
 ペンギンたちが居なくなったことを確認すると、
「ふう、……ダンジョンでも思ったが、動物たちが随分と凶暴になったな。前はもう少し大人しかったはずだが……」
「あ、それは思った。旅を始めて間もない頃に比べて、襲われることが多くなったもの」
「こいつはどういうことだろうな?」
「さぁ? とりあえず数式使いが考えることなのかな?」
「それもそうだ。――そろそろ、村が見えてくるはずだ」
 言いながらあたりを見回す。
 ふと、吹雪が薄くなっていく。
「あ、あれっ!」
 ミリアが指を差す先には、木製の小さな門。
 木の柵で囲まれた、小さな姿が現れる。
「セルシウスの村だ!」