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八峰零時のハジマリ物語 【第二章 011】

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  【011】


――「私立秦氏学園(しりつはたうじがくえん)」

 零時や舞園が通っている学校である。
 ごくごく一般的な普通校で、スポーツが特別強いとか、進学校とか、そんな力の入ったところのない男女共学の普通高校だ。
 俺は、ウチの学校のこういった「ユルイ感じ」が大好きだ。
 肩肘張らない校風なので、先生もそこまで意地悪い奴がいるわけでもなく、おまけに不良学生もいないので、生徒たちは、のびのびと学園生活を楽しんでいるような感じだ。
 俺は不良学生と見られてはいるが……とは言っても、別に「目つきが悪い」とか「ただ無口」なだけで、誰かに危害を加えるなんてことは一度もない。だから「不良学生」というより「目つきが悪い人だからあんまり関わらないようにしよう的学生」というのが、正確な名称となるだろう。
 そんな、ごくごく平凡な一般的な庶民派学校である我が学び舎……「秦氏学園」に、「天界の女王アマテラス」という神様が逃げ込んでいるなんて普通信じられるか?……無理だろう。

 しかし、ここで「天界の女王アマテラス」の「筆頭従属天使(ファースト・アテンダント)」という側近の「メイド服幼女」のマリアが『意外な事』を口にする。
「シッダールタ様……もしかして『秦氏学園』のこと、知らないのですかなのだぞ?」
「何っ?」
「んっ?」
「そうですか。知らないのですね……て言うか人間、シッダールタ様はともかく、何でお前まで『知らない』というような顔をしているのなのだぞ? バカなのだぞ? 死ぬのだぞ?」
「おい、幼女。どんどん口が悪くなっていってるなのだぞ》
「だまれ! マネするなだぞ。ところでお前、何で自分の学校のことを知らないのだぞ?」
「知らないも何も……別にウチの高校なんてごくごく一般的な男女共学の普通高校じゃねーか》
「んー? なるほどなのだぞ。お前は一般生徒か……これは失礼したのだぞ」
「何っ?」
「今のは忘れてくれ。シッダールタ様には後ほど、この者がいないときにお話しますのだぞ」
「それはこまる」
「? ど、どうしてですかなのだぞ?」
「ワタシは今、こいつの身体の中に転生しているからな。この舞園ちゃんの『潜在意識』から抜ければ、零時くんの内面に引っ込んでしまう……いわば『一身同体』だ」
「ええっ! バ、バカな……ありえません……こんな、『もう一つの顔を持つ秦氏学園』を知らない一般生徒である普通の人間ごときに、『天界の救世主(メシア)』であるシッダールタ様を転生させるだけの『器』があるなんて……そんなの『法則』を逸脱しているのだぞ……」
「マリア…………黙れっ!」
「はっ! し、失礼しましたなのだぞ」
「な、な……」

 何だ? 今の二人の会話は……?
 何だ? この『違和感』は……?
 何がどうとはうまく言い切れないが、でも確実に感じる『強烈な違和感』……。
 何が起きてる?
 俺は、どこまで理解してる? 今の状況を?
 シッダールタ……お前、何か隠してるのか?
 というよりも、そもそも俺は、何をどこまで理解してるんだ?

 今は舞園利恵の潜在意識内であるため、零時とシッダールタは別々の個体で存在しており、お互いの「心の声」は届いていない。だから、零時はこうやってシッダールタのことや、これまでのことを考えていた。
 それは、同時に向こうのシッダールタも同じで『何か』を考えながら、マリアと言葉を使わずに会話をしているようだった。おそらくテレパシーみたいなものなのだろう。
 シッダールタは何かを隠しているのは間違いない……けど、だとしても、俺の身体が必要なのは間違いないし、また俺がいないと「マナ」を集めることはできないのだろう? そうでなければ、俺の身体はとっくに、シッダールタが「器」として利用しているはずだからな。
 とは言え、いろいろ考えてみると、俺はシッダールタを疑うことはできるが、だからと言ってそれから仮に真実を知ったとしても、それが何だというんだ?
 少なくとも、あいつのほうが俺よりも力があるし、マリアといった仲間もいるし、いろいろと有利な立場だ。
 であれば、俺がシッダールタを疑ってもあまり「意味が無い」……それよりも、とことん付き合うしか道はない。
 どのみち、俺の命はアイツが握っているのは間違いないんだからな。

――シッダールタが、微妙な顔でときおり俺の顔を見てくる。

 隠したことがバレたことに俺がどう感じているのか?……そんな事を気にしているように見えた。
 であれば、今、俺が決めるべきことは……、

「生きている間に、自分にできることだけをやる」

 それしかない。
 俺の身体がシッダールタのものになり、そのシッダールタが俺の身体を「器」として使って、「天界の危機」を救う。そうなればハッピーエンドってことだろ?
 どうせ、あんな「通り魔事件」みたいに、魔界の悪魔が天界を支配してしまえば、「人間界」だって、ろくなことにはならないだろう。だったら、人間である俺たちからしても、天界が元に戻ることが一番のはずだ。
 そんなハッピーエンドになるために俺の身体を使うんなら、まあ、それも悪くない、よ、な?

「シッダールタ……」
「な、何だ?」
「俺は別にお前が何を隠していようがわからないが、俺はお前を信じる」
「零時……くん」
「どうせ、俺は一度死んでお前に助けられた身体だ。別に、俺に何かを隠していようがそんなの構わない」
「零時くん」
「お前が天界を悪魔から救うことになれば、人間界にとっても良いことなんだろう?」
「ああ……」
「それならいいさ、それで」
「零時くん」
「そのかわり頼むぞ。天界も人間界も」
「……まかせろ」

 俺はシッダールタの目をしっかりと見つめて言った。

「人間……おまえ……」

 マリアは二人の会話を見て、ある覚悟を決めて話を切り出した。

「わかったのだぞ、人間。それではお前にも『秦氏学園』のことを教えよう」
「メイド服幼女……いいのか?」
「マリアじゃっ! せめて名前で呼べなのだぞ、ばかもの!」
「わ、わかったよ……じゃあ、お前も俺のこと名前で呼べよな。俺の名前は零時……八峰零時だ」
「れ、零時か……ふ、ふん、わかったのだぞ」
「何だ? お前ら? 子どものケンカの仲直りか?」
「う、うっせー!」
「そ、そんなんじゃないのだぞ~!」
 零時とマリアは同じタイミングで思いっきりシッダールタに言い放った。
「ふふ、良いコンビだ。さて……では、一旦、この舞園ちゃんの『潜在意識』から出るとするか」
「ちょ、ちょっと待てよ。マリアは……どうすんだ?」
「なーに……ワタシはこのままなのだぞ。零時とシッダールタ様と同じような状態になるのだぞ」
「えっ? てことは、そのまま?」
「ああ。ここで学園の話をするのもいいが、彼女の『潜在意識』の中だと彼女の体力に多少なりとも負担はあるのだぞ。だから今日のところはここで一旦終わり。明日、彼女の身体を入れ替えて話をするのだぞ」
「うむ。そのほうがいいな。ワタシたちは今日のところは帰ろう、零時くん」
「あ、ああ、わかった」
「では明日。放課後にまたあの『丘の上公園』でな。彼女にはワシから事情を説明しておくのだぞ」
「怖がらないか?」