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虹が見たいの

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僕は、得意先からの帰り道、フロント硝子に眩しく差し込む夕陽を見ていた。
「おつかれさま」なんて独り言を言ってみた。
しだいに傾くその陽は、空を最後まで美しく染め 静かに燃え尽きる。
「けっこう赤いな。綺麗だ」誰に話しかけるでもないが言葉を出してみる。
営業車の一人の空間が結構好きだ。歌を口ずさんでも、売り込みのトークの練習も 彼女への思いも 上司への不満も……声に出しても誰も知らない。分からない。

僕はとても楽しい気分。そう、今日の営業回りも無難にこなし、新規の本契約で緊張していたのも 取り越し苦労に終わった。全てがうまくいった。そんな上機嫌は、帰社するまで続いた。いや、退社の時までか……。 駅への途中までだったかな……。

うまくいった商談の報告書は、パソコンへの入力もスムーズにできた。こじつけの理由を作らなくても良いのだから、手順よく片付き、残業といえないほどの時間を費やしただけで終了した。上司からも珍しく褒め言葉を貰って 僕は会社を出た。

駅までの退屈な道のりは、いつも脚が重い。たとえ、今日が良い日であってもさほど気分は変わらない。ただ、ずっと続いていた夏日で夕暮れでも足元に感じていたアスファルトの温度が、先週末の大雨からなくなった感じだ。頬にあたる風の熱も和らぎ、秋風といっていいほど涼やかになった。

緩やかな曲線を描く歩道にさしかかった時、円形の公園をぐるりと囲う柵の中から水の音が聞こえた気がした。
「こんな時間に? 誰か水を出しっぱなしにしたのかな」
僕は、街灯の明かりも届かない公園の中を覗くように入っていった。

少し低木の植え込みの上に水しぶきが上がるのがぼんやり見えた。
可笑しな奴が居るかもしれない、と僕は、なるべく気配を消して近づき 様子を窺うことにした。水飲み場の横の水道から伸びるホースは、少し向こうにいる人影に繋がっていた。
公園の向こう側を通り過ぎた自動車のヘッドライトに照らされ見えたのは、女性のように思った。だがまだ半信半疑、きっと見間違いさ と自分を納得させたがっている。
こんな時間に女性がホースで公園の水撒きなんて、いくら暑いからといっても普通ではない。そう思って見ても やっぱり女性のようにしか見えなかった。
作品名:虹が見たいの 作家名:甜茶