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海竜王の宮 深雪  虐殺3

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 考え込んでいた小竜は、許婚に顔を向けて質問する。
「純粋に力だけですと、シユウのほうが強いと思われます。ただ、我々には、それぞれとの連携がありますし、火や水などを使って遠距離の攻撃も可能です。ですから、総合的に申しますと、拮抗しているか、僅かに竜族のほうが有利かと存じます。・・・・背の君、何事ですか? 」
 尋ねられたことが不穏だ。そのまま答えは吐き出したものの、華梨も顔色は変える。
「竜一匹でシユウは何匹殺せる? 」
「将軍職が何人かで当たれば、一人当たり三頭といったところでしょうか。条件にも拠りますが、それより低いことはございません。」
「竜王の宮って、戦える人数は、常時、どれくらいはいる? 」
「そうですね。三千は下らないと思います。文官たちも、将軍たちよりは弱いですが戦えますので、竜王の宮で働くものたちは、みな、戦えますでしょう。」
 単純に考えて、シユウの宮城というのも、それぐらいの人数が居るということだ。三竜王だけだと、とても闘える数ではないな、と、深雪は考える。いくら竜王といえど、体力には限界がある。三千の兵士を相手にして無事では済まない。
 また黙り込んでしまった小竜に、華梨も不安そうな視線を向ける。唐突に許婚が言い出したことは、不穏極まりないことだ。そういうことが起こっているのなら、華梨も対処を考えなければならない。
「背の君、ひとつ申し忘れました。黄龍は、その竜王よりも力がございます。私くしでしたら、独りで十や二十のシユウと仕留めてみせましょう。」
 シユウに不穏な動きがあるのなら、全力で排除する。大切な許婚を守るためなら、華梨は労力を厭わない。
 その言葉に、小さな許婚は顔を上げて苦笑した。本当に、その気持ちは潔くて可愛いと思う。だが、そんなものではない。黄龍が前線に立つということは、その前に、水晶宮の兵士が滅んでいることを意味するのだ。
「華梨、その意見は却下。」
「どうしてです? 背の君。」
「きみは、水晶宮の守りの要だろ? それが一番前で戦うなんて有り得ないし、そういうことになるとしたら、水晶宮は壊滅的な打撃を受けた後だ。」
 深雪は、ただの子供ではない。人間界で成人して三十までは生きていた。だから、戦略的なものも多少は理解している。ビジネスの戦略というものも、似たようなものだ、最初から一番強いものなんて晒さない。まずは、試して、そこから徐々に手札を晒す。その段階で対処することが前提であるからだ。
「なぜ、この場で、そのようなことを? 」
「うーん、ちょっと思いついただけ。・・・一姉が戻ったら教えてくれる? 俺、ちょっと逢いたくなったんだ。」
「承知いたしました。・・・・本当に他意はございませんか? 背の君。」
「今のところはないよ。・・・・一姉が戻ったら、何か変わるかもしれない。」
「シユウが関係しておりますか? 」
「・・・わからないな、今のところは。」
 三兄の捕縛が事実なら、という条件がある。ただの悪戯なら、三兄は近日中に、水晶宮に顔を出すだろう。それとも簾が戻って来て、事実の確認が報告される。動くなら、そうなってからだ。
「本当に? 」
「ねぇ、華梨。竜王たちは好き? 」
「ええ、兄たちですもの。・・・・背の君? 本当に、何もありませんか? 兄の誰かに何か起こっているのですか? 」
「今のところは、何もないよ。」
 事実確認が終わってから、その話はしよう、と、深雪は決めた。そうでないと、この許婚、いきなり暴走する怖れがある。そうなっては、金と銀の竜が並んでシユウの宮城に乗り込むなんてことになりかねない。そうなると騒ぎが大きくなる。できるだけ、こっそりとなると、深雪が一人で出向いて行くほうが無難だ。場所さえ判れば、深雪は、そこから三兄を跳ばして助けることができる。それなら、宮城の内部へ侵入する必要はないし、深雪自身も身に危険なく助けられるはずだ。
「華梨、とりあえず散歩しない? 」
「ですが・・・」
「一姉が戻ったら、全部解る。それから、ちゃんと話す。まだ、はっきりしないから話しても意味がない。」
「どうして、背の君は、ご存知なのですか? 」
「俺は人界まで眺められる力があるんだ。水晶宮のことは、なんとなく解るよ? 」
 細かく一人一人の意識までは把握できないが、ざっくりと水晶宮全域のことは解る。騒ぎがあれば、そこだけは空気が変わるから、そこを覗けばいい。
「私のことも、眺めていらっしゃいます? 」
「眺めなくても、華梨の気は強烈だから、すぐに解る。燃えるような気になったら怒ってるんだろうとかさ。」
「まあ、恥ずかしい。」
「でも、ずっと眺めてるわけでもないよ。他の事をしてる時は、そっちに意識が集中するから。」
 起き上がった小竜を抱き上げると、華梨は私宮の庭への窓を開ける。散歩なら、庭から、その奥へ続く林がいい。今の時間なら、木漏れ陽が差し込んで温かいはずだ。






 シユウの王がいる本拠地の宮城は、熱帯雨林の真ん中にある。そこなら、隠れられるものがあるから侵入はできるだろうと踏んでいたら、そこではなかった。シユウの領域の端にある砂漠の真ん中てある宮城にいることが判明した。先行したものが、竜王の居場所は、すぐに掴んだ。シユウの領域で、竜族の気配がするところとなれば、そこしかなかったのだ。
「厄介だな。」
 報告を聞いた簾は舌打ちした。砂漠では隠れるところがない。今も、かなり離れた砂漠のオアシスに陣取っている。
「それだけじゃない。宮城の庭に転がされて、周囲を兵士が囲っている。これは、我らだけでは、ちと難しいぞ? 」
 先行してくれたものは、別の種族だから易々と入り込むことが出来た。だが、実際に、その場面を拝んだわけではない。兵士の一人に酒を奢って、それを教えてもらったのだ。
「兵士の数は? 」
「王が出向いているから千は下らない筈だ。身内を連れているらしい。」
「王か・・・厄介だな。」
 シユウは、その時、一番力の強いものが王の座に就く。だから、現在、最強のシユウが、そこにいることを意味しているし、身内を連れているということは、その最強のシユウの力を分けられたものがいるということだ。そうなると、簾たちだけで太刀打ちが難しくなる。
「陽動で王を引き離すか。」
「陽動したヤツは命懸けになるぞ? 季廸。」
「竜王の奪還するほうも命懸けだぞ? 簾。どちらにせよ、この人数では無理だ。」
 偵察だから、それほどの人数はいないし、偵察に向いているものは、戦力としては弱い。最低、こちらもそれなりの武人を三百は欲しいところだ。
「やはり、広の力も必要だな。・・・・一度、戻って報告してくる。おまえたちは、ここで待機して、このまま探れ。動きがあれば、報せてくれ。」
 さすがに、簾の後宮にも、それだけの数の武人はいない。本格的に奪還計画を遂行するとなれば、長の手勢も借りなければならないだろう。まずは、報告に戻って、そこいらは詰めることにする。
「陽動となれば、火薬も必要だぞ? 」
「季廸、おまえ、私と一緒に戻って、その手筈を整えろ。」
「そうだな。俺がやったほうが早いだろう。帰りに、そこいらの調達はしてこよう。」