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海竜王の宮 深雪  虐殺3

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「我が上、何事かございましたか? 」
 自身の後宮に下がってきた簾は、すぐに蓮貴妃を呼んだ。旅支度をしている自分の主人に、蓮貴妃も尋ねる。
「すまないが、少々、野暮用だ。私は、気鬱の病で宮に引き篭もるから、おまえ、深雪の相手に専念してくれるか? 」
 と、言っている相手は、いつもの男装に旅支度の最中だ。どう見繕っても、気鬱の病なんか発症していないが、蓮貴妃も慣れたものだ。こういう場合、主人自身で確かめたい出来事があるから、内密に遠征するということだと理解している。
「我が上の代わりとはいきませんが、精一杯、小竜の相手を勤めさせていただきます。・・・・どうぞ、お気をつけて。」
 簾の面前で叩頭して、蓮貴妃も了承の意を唱える。重ねている蓮貴妃の両手を、持ち上げて、簾が立たせる。そして、頬を撫でて抱き締める。
「良い子だ。おまえは物分りが良くて助かる。」
「あなた様のためでしたら、私は如何様にも。」
「すまないが、頼む。もしかしたら、後で呼ぶかもしれない。その時は、着飾って現れよ。おまえの剣舞を所望する。」
「承知いたしました。」
 睦事のように語らっているが、実際は、ちょいと小競り合いになるかもしれないから、呼んだら武器を携えて参戦せよ、と、いうことだ。蓮貴妃も微笑んで頷く。
「深雪の警護もな。あれは、私とおまえの子だ。」
「はい、そちらもお任せください。」
「おまえは、私の正妃。他には、代わりがないほど愛しい。」
「もったいないお言葉でございます。蓮は嬉しくて死にそうでございます。」
「・・・あのな、そういうことは、人のいないところでやっくれんか? 身体がむずがゆくて、たまらんぞ。」
 もちろん、周囲には、同行するものも準備しているわけで、古株の季廸が代表して注意をする。
「妬くな、妬くな、季廸。おまえも女房を持てば、可愛く愛でる楽しみが味わえるぞ。」
「そんなもんは、おまえより経験しとるわいっっ。」
 季廸のほうが、簾よりも、かなり長く生きている。家庭こそ持っていないが、それなりに愛しいと思う相手はある。だが、大勢の知り合いの前で、睦言を交わすような真似は、とてもできるものではないし、簾は、れっきとした女性だ。ついでに、その正妃と呼んでいる蓮も女性だ。だというのに、簾は、自分の正妃の腰に手を回し抱き寄せているし、正妃と呼ばれている蓮も、うっとりとして身体を預けている。どちらもが同性でなければ、仲睦まじいと思う姿だ。
「これぐらい惚れてくれる女というのは、いいもんだぞ? それに、私の蓮は賢いときている。」
「どうでもいい。別れの挨拶はできただろう。そろそろ、出立したいんだがな? 」
「しょうがないな。・・・では、行って来る。」
 蓮貴妃の唇を一瞬奪うと、簾は踵を返す。もちろん、蓮貴妃のほうも、叩頭して見送る。どう見ても、正しい夫婦の行いなのだが、なぜだか、季廸は理不尽なものを感じつつ、簾に続いた。シユウの領域に詳しいものは、先行した。
 季廸たちは、それらと合流して、どの宮城であるのか探り、可能なら奪還もする予定だ。生半可ではない。生死がかかるのだが、簾の関係者というのは、そういう事態に慣れているから、顔色は変わらない。いつもの探索のように出て行く。だから、兵士たちも隠し扉から出て行くのを、暢気に見送っていた。実は、簾も紛れていたが気付かれなかったのは、言うまでもない。



 昼寝から目覚めた深雪は、ふと周囲の様子がおかしいことに気付いた。とはいっても、深雪の私宮は、元から人の出入りはない。おかしいのは、水晶宮の中心方面での人の動きだ。バタバタと人が動いているのが、わかる。深雪の超常力というものは、両親や兄たちが把握しているより、ずっと多様な使い方が出来る。以前は、体力が無くてできなかったことも、ここ二十年ほどで可能になった。水晶宮全域とまではいかないものの、かなりの広範囲を把握できている。
「背の君、お目覚めですか? 」
 居間から現れたのは、華梨だ。いつもは仕事で留守をしている時間なのに、戻って来てくれたらしい。
「どうかしたの? 華梨。」
「え? 」
「いつもは仕事してる時間だろ? 」
 許婚は、夕方まで水晶宮での実務を学ぶべく、両親と共に仕事をしている。それが、こんな早い時間に帰ってくるには、何かあったと考える。中央がザワついているのに、対応を学んでいるはずの許婚が、戻っているのが不思議だ。
「ええ、実は、簾が遠出をしてしまいましたので、背の君の世話ができなくなったとのことで、私が代わりに参りました。どうしても外せない時間は、蓮貴妃が、いつも通りに来てくれますが、それ以外は、背の君の側に居てもよいとのことです。」
「なんかあったの? 」
「いえ、これといっては、何も。」
 しげしげと許婚の顔を覗きこむが、偽りではない。心が揺らいでいないのが、その証拠だ。だが、何か起こっているのは事実だ。両親の心の波動は、かなり激しく動いているからだ。

・・・・つまり、華梨には報せてないってことか・・・・

 何かあったことを、許婚には伝えていないらしい。つまり、深雪自身に届かないような配慮ということだろう。触れたり、近くに居れば心が解ると思われている。
「華梨、もうちょっと寝たい。」
「はい、では、もう少しお休みください。」
 とりあえず、何が起こっているのか、把握することにした。意識を集中すれば、それぐらいは簡単なことだ。以前、人間界を覗いていたというのに、両親は、それを失念しているらしい。

 そっと遠くへ意識を向けると、見慣れぬものがあった。門の側に、大きな首が横たわっていた。ざっくりと首を切り離された竜だった。血は乾いているから時間は経過している。
「これは、どうすべきなのだ? 」
「まだ、主人様たちより指示がない。とりあえず、布をかけておこう。」
「なんとも惨いことだ。このように首を引き千切られるとは。」
「シユウめ。なんということを。」
 門番の兵士たちは、口々にシユウを罵っている。大きな布が用意されて、それで竜の首は隠された。
 それから水晶宮の公宮に意識を転じると、そちらには両親と長兄が真剣な顔をして、ひとつの書簡を睨んでいる。書簡自体は、深雪には、まだ読めないが、読んだものの心を探れば内容も解る。長兄の心から、それを読み取って、はっと目を開けた。

・・・・なんだと? 俺に迎えに来いだと? ・・・・

「背の君、いかがなさいました? 」
 いきなり飛び起きた小竜に、華梨も驚いて立ち上がる。だが、返事はない。飛び起きて、そのまま、じっと中空を睨んでいる。

・・・・三兄が捕まってるかもしれない・・・開放の条件が、俺がシユウのところへ出向くことか・・・今、事実確認のために、一姉は飛び出しているんだな・・・・

 長兄の心から、それらをざっと読んで、息を吐いた。万が一、それが事実なら、長兄は奪還のために、シユウの宮城へ赴くつもりだ。深雪自身を連れ出すつもりは毛頭ないし、竜王だけで対処するつもりで考えている。下手をすれば、全面衝突になって戦になる。それらも先の予測として考えて、対応を練っているらしい。
「華梨、シユウと竜は、どっちが強いんだ? 」