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ぶち猫錬金術師

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 アルベルトはそれを聞くと、ようやく決意を固めた様子で、大きく呼吸した。
「断る。僕は人殺しにはなりたくない」
「是が非でもか」
 メタトロンの口調がいきなり変化し、アルベルトを脅すようにして地面の底から響くような、ドスのきいた声で質問してくる。
「無論だ。天が地に変わろうが、な」
「ならば問答無用で貴様を殺し、存在を消すのみ」
「なぜ僕を殺す必要があるのだ、なぜなのか言え」
 メタトロンは魔法で出したのだろうか、いつの間にか右手に大きな剣を構えていた、その剣をおろすと
「冥土の土産にでも教えてやろう、貴様の錬金術は我々神にとって、厄介なのだ。わが主はそのことを懸念しておられる、アルベルト=マグナス、貴様に生きていてもらっては困る理由があるのだ。故に、死んでもらう」 
 メタトロンは一気にまくしたて、それから再び剣を構え、振り上げた。
 アルベルトが死を覚悟し、腕で顔を覆うと、メタトロンの背後から青白くほとばしる眩い閃光が飛び散る光景が視界へ飛び込んできた。
「なにっ」
 その光は、メタトロンの想定外のものだったらしく、かなり憔悴した様子だった。
「どうしたんだ。この光はいったい」
 アルベルトは冷静に、意外と眩しくはないその光を眺めていた、ふと視線の先に奇妙な服を着た少女がいつの間にか倒れており、抱き起こした。
 黒い髪のショートカット、胸にはリボンを結んだ変わった服装だが、太ももがあらわとなり、アルベルトは視線を泳がせた。
「くっ、こうなれば」 
 メタトロンは閃光の力に弱いらしく、アルベルトの目から見てもそれは明らかだった、メタトロンは残された力を振り絞り、アルベルトに呪文で起こした風をぶつけてきた。
 風圧はアルベルトの全身を包み込み、意識を失い、床へ突っ伏した。
 黒髪の少女は起き上がると、アルベルトが温和そうな紳士からぶち猫に変化する瞬間を目の当たりにしたのだった。
「起きて、だいじょうぶ」
 大きさは犬ほど、まだら模様の、少女の腰くらいの身長になりはしたが、兎も角、アルベルトは生きていた。
「ぶ、無事ですんだのか」
 アルベルトは胸を撫で下ろしたのもつかの間、ルチアやトマスにどう説明したらよいのか、皆目見当がつかず、肉球でぷにぷにとした両手を顔に引っ付け、これからのことを悲観して、嗚咽した。
「この間まではあいつ、メタトロンに殺されるとばかり思い、恐ろしかった。だが今度は人間ではなくなってしまっている。僕はどうすればいいんだにゃん」
「私も。こんな知らないところに何で呼ばれたのか、わからないよ。あんたさ、誰かに相談できないの」
「誰かといっても」
 アルベルトは思い当たる人物は、すべて思い起こし、ひとりだけ該当した。トマスだった。
「ううむ。同じ師匠を持ち、錬金術師といえばトマスしかおらぬ。よし、いこう、トマスのところに」
 アルベルトは昔飼っていた兎用のフードとローブを被り、ありったけの金貨を持ち、家を出た。
 ルチアの裁縫してくれた服は、今のアルベルトにぴったりの寸法だったのだ。
「喜ばしいことなのか、それとも嘆くべきなのか」
「むずかしいところね。まあ、あんたがそのかわいい耳を隠せれば、それでいいんじゃないの」
「そういうことにしておくか。ところでお前さん、名前くらい訊いてもいいかにゃ」
 短足になったせいか、小走りなのが可愛らしい、とシホは思ったのだろう。アルベルトの背後で歩を進めながらにやついていた。
「私、桜庭シホ。女子高生よ、セーラー服着てるから、わかりそうなものだけど」
「にゃん。セーラー服って、にゃんだ」
 アルベルトとシホが通りかかった裏通り、そこはちょうどルチアの働く酒場の前。
 夢中になりすぎたのか、アルベルトはまるで気がつかない様子で、シホに話して聞かせていた最中だった。
「こんばんは、お嬢さん、それにあなたのお子さん。かわいいわね。今夜は月がきれいだわ、お散歩の途中かしら」
「あのね」
 親子連れと見えたことにショックを受けたらしいシホは、あわてて反論しようとした、しかしアルベルトはそれを制した。
「お腹がすいた、母ちゃん。メシ食べよう、メシ」
「それならウチが安いわよ。サービスするわ」
 ルチアは片目を閉じながら店の奥へと入っていく。
 さあ大変、シホはすっかりご機嫌斜めになり、アルベルトのことを責め始める。
「ちょっ、だれがあんたのおっかさんだってのよ」
「僕は、あいつの婚約者だったんだにゃん。でもこの姿じゃみっともなくてにゃ、合わす顔がないんにゃもん」
「あ。そっか、ごめん」
 すっかりしょげ返ったアルベルトに、シホはしまった、と思ったのか、頭をかきだした。
「今度の日曜、ミサが終わったら婚約パーティ開こうって、おいおいおいおい」
 突然号泣するアルベルトを、シホは慰めることで精一杯。
「ああ、わかった、わかったから泣くなって。こりゃあ、とっととトマスって人んとこ、いったほうが無難みたいね」
 ひとつ気になることがあったので、シホはさりげなくアルベルトに尋ねてみる。
「ねえ。昔兎飼ってたって言ったけど、いまはどうしてるの」
「実験に使った」
 シホは、
「聞くんじゃなかった」
 と、激しい後悔に苛まれるのだった。
      



    第二話   あだ名はマーブル



 トマス=ヴィスコンティは修道院で生活していた。
 門限にうるさいが、新鮮な野菜とスープ、硬い黒パンくらいなら食べられるので、まだ我慢できた。
 もしこれで食事を満足に取れなかったら、トマスは恐らく破門されようが修道会を飛び出していただろう。
 ともあれ、扉を叩く音で眼が覚めた。
「はい」
 戸を開けると、黒髪のかわいらしい少女が突っ立っており、足元には何やら小さいのがうごめいていた。
「何か用か、ここは女子禁制の修道院だぞ。場をわきまえろ」
 門限破りの少女を叱咤する父親のような顔をし、つっけんどんに言い放つトマスだが、閉めようとするタイミングを見計らって、小さい生き物が飛び込んできた。
「うわあ。びっくりした」
「そう無碍なことをするでない、トマス。あの子を叱らないでくれ。僕だ、アルベルトだ」
「ア、アルベルト」
 半信半疑のトマスだったが、姿かたちを一切変えたこの化け猫、ではなくアルベルトを不憫に思い始めていた。
「悪かったのかなあ。あのときお前の話を微塵でも信じていたら、こんなことには」
「いいんだ、トマス。それよりもルチアのこと、どうすればいいのか」
 猫人間となってしまったアルベルトを無表情のまま見つめながら、トマスは言った。
「選択肢はふたつあるぜ、アルベルト。正直に話すか、それとも正体を隠してこの先も生きるか」    
「どっちの道を選んだら」
「さあ。そんなこた、知らん。自分で考えな」
「ひっどい、お兄さん。アルベルトの友達なんでしょ、意外と冷たいのね」 
 トマスは二本目のタバコをふかし、故意になのか無関心を装っていた。
「ちょ、黙ってないで答えなさいよ」
「周りが騒いだところで、アルベルトの代わりにはなれないだろ。決めるのはアルベルトだよ。俺やお前じゃない。そこを理解しろ」     
作品名:ぶち猫錬金術師 作家名:earl gray