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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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3.ゲームその2



 アモーは一人でレイクの拘束を解き放つと、涙に濡れる少年の顔を見た。
 震えてどうしようもなく打ちのめされているその様子は、医者にかつてのあの事件を思い起こさせた。それはやっとレイクが回復しだして、アモー達に心を開き始めた矢先に起きた悲劇だった。
 深夜の救急治療室から救護科に上げられてきた時と同じように、今のレイクも恐怖に怯えきっていた。そんな少年を漫然と見ている内に、アモーはその時は忙しくて出来なかった事をしてみる気になった。
 医者は身を屈めると少年をゆっくり抱きしめてやり、そして安心させるように耳元でささやいた。
ア「もう大丈夫だ、危険は去った。落ち着いて。君は病院にいる。医者の私が助けてあげる」
 それから彼は別室に内線をかけ、コンピューター室と繋がっている音声を切るよう頼んだ。
 ミットンはアモーの言う通り技師にその手順をさせると、別室から出てこちらを見にやってきた。
ミ「何をしてるんだ、クマの親子のようにくっついて?」
ア「安心させてる。これが患者には結構大切なんだぞ…特に小さい子供には」
ミ「老住に見られたら変なふうに誤解されそうだな。私にもその必要性は分かるが」
ア「勝手に何でも思わせりゃいいさ。今だって僕はチップなんてさっさと出してやりたい。たとえ彼が手術後の激痛にさいなまれるとしても。そうすれば、事は僕ら医者とレイクだけの問題になる。事態がスッキリするとは思わないか」
ミ「まあ待て、まだゲームは続いてる。勝敗の行方を見ようじゃないか。前のゲームはどんな方法であれ勝ったんだ」


 しかし二回戦が始まってみると、次のMELT・DOWNは形勢不利だった。なかなかベンの得意な迷路が出てこないのだ。不運というのはある時にはあるもので、この日は他の助手らの得意なゲームも少なかった。
 一方ユースはこの手のゲームにも変わりなく強さを発揮していた。彼は不得意という物がまるでないように、どれもあっという間にクリアしていった。
助「ヤバイ、半分以上負けてる。あといくつだ?」
助「16だ。全部で3セットあるが、この分だとキツイな」
 そこへやっと迷路が出てきた。
 ベンは自分で言った通り、それが出ると威力を現した。画面の映像を一目見ただけで、瞬時に入り口から出口までの道程を見分けてしまったのだ。道をなぞる手の動きも早く、これは開始後2秒弱という圧倒的な記録で彼の勝ちになった。
 感心したのか、ユースがわざわざメールを送ってきた。

 ───すごいね。誰だい、今の?
 ───音声を戻せよ。つまんないじゃないか。

助「もうパレてるな、完全に。…だがこのユースって奴は化け物だ。知能指数は200を超えてるに違いないぞ」
レ「アモー先生。俺の脳波計を政府回線に繋げって頼んで」
 レイクがやっと目を開けてそう言った。アモーがそれを聞いて別室のミットンたちに伝えた。
 技師は脳波計の回線を切り替えて、外部用の通信網の機材にそれを接続させた。
ア「どうするんだ」
レ「ルーに助けてもらう。短時間でいいから、俺のロボット版に仕事をさせるよう頼んでみる」
ア「ロボット版?」
レ「ルーと同じく、コメットの言う事を聞くように出来てる。だけど老住があのコンピューターで、他からも介入できる司令を作った」
 老住がその作業をしていた時の事を思い出して、アモーは複雑な顔をした。教授の機械操作でレイクはおかしなセリフを言わされたのだが、本人はどこまでの自覚があったのかと疑問になった。それでアモーはレイクのそばに身を屈めて聞いてみた。
ア「あれは全部、老住が君にやらせた…いや、言わせたんだな?抱いてと言ったのも、その後で笑ったのも?」
レ「あまり覚えてない‥。起きると忘れてしまう夢みたいな感じなんだ。人工知能に乗っ取られてる時の事は、よほどインパクトが強くないとすぐに忘れてしまう」
ア「忘れていいよ、僕は君には何も怒っちゃいない。…娘が小さい頃にも、ああやってよくキスをせがまれたものだよ。今度病院に遊びに来たら、会ってやってくれ」
 レイクはそれを聞くと、機械に命令されたのではない本当の笑いを返した。アモーはそんな少年に何か好意を示してやりたくなったので、相手の頬を手の甲で撫でてから、娘にするように軽く口づけた。
 医者はにこやかに笑って枕元に立ちながら、レイクが脳内でルーにアクセスするのを見守っていた。そうやって作業している間、少年はただ表面的には眠っているだけのように見えた。

 ミットンが再び別室から歩いてきた。彼はアモーに肩でぶつかると、耳元でつぶやいた。
ミ「それ以上はするなよ。しっかり見えてたぞ。技師は見てみぬ振りをしたがな」
ア「娘にしてやるキスです」
ミ「老住の主張する世界も実在する物の一つだ。お前はその知識があまりないから、踏み込み始めてても分からんだけかもしれんぞ」
ア「僕がレイクとどうなるというんだ。彼を自ら傷つけるぐらいだったら、僕は医者を辞める。分かってるでしょう?」
ミ「医者を辞めてもいいぐらい好きになってしまったらどうするんだ。レイクは悪い子じゃないが、普通じゃない。突き放して見ないと彼の全ては見えないぞ」
ア「僕の患者との接し方は、心的に何か触れ合いがないと成り立たないものなんだ。とにかく今は抱いて守って安心させてやるのが一番大切だと思った。間違った事はしちゃいない」
ミ「分かったよ。今度、寂しい時は私にもチューしてくれ。いいな」
 ミットンは冗談を冗談ともいえない顔つきでそう言うと、また別室へ帰っていった。


 レイクがやがて両手を空中に上げてヒラヒラさせ始めた。
 アモーは助手達の所へ行って場所を開けさせ、画面が少年にも見えるようにした。
 ルーに指示されたようで、人工知能Lがレイクに代わってしゃべりだした。
レ「ゲームを手伝うよう指示されました。私はルーの指示を受けていますが、レイクの思考そのものです。得意な知能クイズは文章もの、キューブ、数字系統…」
助「これは俺のオハコだ、“並べ替え”。さっきはユースに負けたが、今度はやるぞ」
レ「色を見れば早い。形にとらわれると混乱します」
助「なるほど」
 開始されたそのゲームは、僅差でユースの勝ちだった。終わると今度も彼のメールが届いた。

 ───NICE PLAY。

助「向こうは必死にやってないように思えるな」
助「化け物だって言っただろ」
助「あっ、次はキューブだ。レイク、出番だぞ」
 画面に絵が現れると、レイクはユースより早くボタンの数字を言い、ベンがそれを押した。

 ───今のはレイクか。
 ───起きたのか?ノックアウトしたと思ったのに。

 ユースの後から出てくる文章は、どうやらチョースのものらしかった。
 画面では、ゲームはさらに続いていた。
助「次、風船だ。こうなりゃみんなで押せ」
 今度もパワーで本部室側が勝ってしまった。
 しかし対戦成績は45対12とかなり劣勢を強いられていた。助手らは今ではレイクに完全に場所を開け、ベン以外の所は少年に任せるようになった。
 Lに助けられたレイクは冷静沈着で、なかなかいい結果を出し続けた。助手達は彼とペンのいいコンビぶりに拍手喝さいを送った。