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パシフィスタ
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夏の陽射し

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運命のイタズラ





翌日から、授業後に地獄のような練習が待ち受けていた。1年生の俺にはそこまで熱を入れる理由もなかったが、
3年生は次の大会で負けたら引退なのだ。熱が入らない訳がない。


「よーし!次!!レギュラーはバッティング練習!!1年生は後ろで球拾ってやれー!!」

「ウーーッス!!!」


全員に指示を出すこの人は野球部のキャプテン、3年生の日比谷 崇(ひびや たかし)先輩。
個性豊かなうちの野球部員達をまとめるキャプテンシーは尊敬に値する。

成績優秀、運動神経抜群、それでいて超がつくほどのイケメン。
学校内にファンクラブが存在するほどだ。


日比谷先輩が野球部の「陽」なら、野球部の「陰」は、我らがエース、2年生の飯山 俊介(いいやま しゅんすけ)先輩だ。

こんなちっぽけな弱小チーム(とは言っても、地区予選で8強クラス)になぜいるのかわからないが、中学で全国2位のチームのエースだったらしい。

力のある直球は140キロを超え、カーブ、スライダー、ツーシームを武器に相手に冷静に立ち向かう、孤高のエース。そして、次期キャプテンだ。
・・・が、何といってもこの先輩、とても暗い。なんというか、周りを寄せ付けないオーラを放つ人物である。

この二人によって栄光高校の野球部は成り立っていると言っても過言ではない。


キーン、キーン・・・

乾いた金属音が鳴り響き、1年生の部員10名が必死に球に食らいつく。

俺がふと校舎の方に目をやると、2年生の教室から実澪が練習を見ていた。
実澪も俺に気づいたらしく手を振っていたので、俺も手を振り返した。


キャプテンはそんな気の抜けた俺を見ていたようだった。


「渡辺!!!学校の周り20周!!走ってこい!!!」


「えー。マジか・・・」

「何か言ったかー!?」

「何も言ってません!!走ってきます!!・・・はあ・・・」
こんな毎日が続いていた。


金曜日、練習が終わり、今日も筋肉痛を引きずりながら、実澪の待っている図書室へ行こうとしたとき、キャプテンに呼び止められた。


「おい、渡辺。ちょっといいか?5分だけだ。時間は取らせない。彼女も待ってることだしな。」

「あ、はい!大丈夫です。なにかありましたかか?」

「いや、そんな大したことじゃないんだ。これは1年生全員に聴いてることなんだが、お前はどこのポジションを希望してるんだ?」

「あ、はい!俺は外野手志望です!」

「やっぱりか・・・」

「え?どうかしたんですか?」


どこか納得していないというか、腑に落ちないキャプテンを見て少し不安になる。


「俺は、お前にピッチャーをやって欲しいんだ。」

「え?だって、ピッチャーは飯山先輩がいるじゃないですか。」

「俺がなんのためにお前に学校周りを何十周も走らせてたかわかるか?」

「なんでって・・・気を抜いてたからじゃ・・・?」

「ピッチャーは足腰が強くなきゃダメなんだ。俺は最初から、お前をピッチャーにしたかったんだよ。」

「だって、俺ほぼ初心者ですよ!?」

驚いた。野球をやったことがあると言っても友達と遊びでやっていたぐらいだ。
そんな男にピッチャーを任せるなんて。


「俺は、お前のフォームに惚れてるんだ。」

「はぁ。」

「お前のその肘と肩の柔らかさ!太ももと足の筋肉のバランス!・・・とにかく、俺が引退するまではなんとかピッチャーとして練習してくれ。ヤマに次ぐピッチャーがいないことがあいつに負担をかけてる。だから練習はヤマと一緒の量をこなしてもらう。頼んだぞ。」

ヤマというのは、飯山先輩のあだ名だ。

「い!飯山先輩と同じ量ですか!?」

「それだけじゃないぞ。ルールも覚えなきゃいけないからな。頭も体もこれからさらにハードになるぞ。覚悟はいいか?」

(覚悟も何も・・・ほぼ強制的じゃん・・・)

「・・・はい!やります!がんばります!」

「よし!頼んだぞ!」

キャプテンとの話も終わり、勇太とも別れて、実澪のところに向かう。

7時を回り、既に図書館には誰もいなかった。
その中に一つ、机に顔を伏せている塊があった。

「実澪。お待たせ。」

「ん・・・、あ、練習終わったんだ。」

「悪かったな。先に帰っててもよかったんだけど。」

「んーん!私が待っていたいんだから、カズは気にしなくていいの!」

「うん。ありがとう。」

「さ!帰ろ!」

実澪は俺の手を握ると俺を引っ張って図書館を出た。
辺りは薄暗く、しかし、日中の蒸し暑さが残っていた。


俺はさっきキャプテンに告げられたことを実澪に全て話した。
実澪はこう見えても小学校と中学校はソフトボール部に入っていた。

「え!!?カズがピッチャー!?すごいじゃん!!」

「すごくないって。無理やり任された感があるし。大体飯山先輩がいるから俺の出番はないだろ。」

「でも、あの日比谷先輩に任されたんでしょ?ってことは、期待されてるってことじゃん!」

「うん・・・そうだといいけど。」

「カズがマウンドで投げてる姿、見てみたいなぁ。」


実澪はそう言いながら俺の顔を見る。その目は真っ直ぐで、汚れのないものだった。
俺はその目を見ていると、なんだかわからないが、とにかく頑張ろうという気持ちになった。


「・・・わかった。やれるだけやってみるよ。ただし!実澪は俺に野球のルールを教えること!」

「え!?だって私ソフトボールしかやったことないんだけど。・・・ううん。わかった。教えてあげましょう!」

「ありがとう。」


俺は実澪を握る手に少し力をいれた。それは、覚悟を決めたこと、頑張ろうと言うことを実澪に、口に出さずに伝えたことと同意だった。


それから、俺は必死に飯山先輩の練習に耐え、自分でもわかるくらいにメキメキと力を付けていった。
ソフトボールのルールしか知らないはずの実澪も、俺の練習が終わるまで、図書館で野球のルールブックを読みあさり、それを俺に教えてくれていた。


そして3週間後・・・

「集合!!」

『おう!!』

野太く、そして力強い声がグラウンドに響きわたる。
それまでアップをし、それぞれで練習メニューをこなしていた部員たちがキャプテンのもとにダッシュで駆け寄る。


「今日はレギュラーチーム対補欠と一年生合同チームで紅白戦を行う。勝敗に関係なく、いいプレーにはそれなりに評価をする。つまり、例え負けたとしても、能力を認められればレギュラーに抜擢されるということだ。だけど、これだけは間違えるんじゃないぞ。」

キャプテンはいつも以上に部員ひとりひとりの目を見つめていった。

「野球はチームプレーが大事だ。これを軽視する奴は、いくらいいプレーをしても評価はしない。レギュラー組にも言っておく。プレー次第でレギュラー落ちもありえるんだ。全員が協力して、いいプレーをしよう。」

この言葉にレギュラー陣も目の色が変わり、全員にキャプテンの喝が響きわたった。


「レギュラー組は、背番号通りの守備位置、打順もこの前の練習試合の時のままで行く。それから、お前たちが先攻だ。」

『おう。』

レギュラー組はそれぞれがベンチに向かい、試合に向けて準備を始める。

作品名:夏の陽射し 作家名:パシフィスタ