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ウォーズ•オブ•ヘヴン 0

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 日本のとある山の頂上。
 少年は、星を見上げてこう言っ た。
「あのお星様の向こうには、何があるのかな?」
 無邪気な声で、隣にいる父親に訊いた。
 「何があるのかな?探してみたらどうだい?」
 と、父親は答えた。
 少年は、父親の言ったことに納得がいかなかったようだ。少しふてくされて、口を尖らせている。
しかし、ふと寒空の下、月を見上げると少年は笑顔でこう言った。
 「うん。僕、絶対にお星様の向こう、見つけてくる。」
 月明かりだけが照らす雪の上、その日はまだ半月にも満たないというのに、透明で明るかった。
 少年の真剣な眼差しは、星の先にある宇宙の存在をかき消して、別の世界を見つめているように見えた。

 目の前の壮大な景色を眺めるうちに、眠くなってしまったのであろう。少年は空とは対照的な深い眠りについていた。
 お星様の向こうには、天使が居るんだ。強くて、かっこ良くて、白い羽で空を飛ぶんだ。
 ……少年は純粋だ。

 reverse…
 「ハァクシュン!!」
 流石にこの季節になると寒かった。
 マフラーをキツく巻きなおし、気が遠くなるような長い大通りを歩いていた。
 名前は橙田玲慈(とうたれいじ)。オレンジの目立つ髪に、横髪に付いたメタルのデカいアクセサリー。
 見た目を除き、彼はそう、ただの高校生だ。
 いや、本来ならばただの高校生であった、はずだった。
 辺りはすっかり夜で、24時間営業の店の明かりがちらほらついているくらいだ。
 かと言って、この街にコンビニは無い。ましてやスーパーも無い。
 言ってしまえば、もう日本でも地球でも無い。
 ここは天界だ。
 とは言っても、俺は飛べる訳でも、魔法が使える訳でも無い。思い通りにもならないし、勉強だのテストだの補習だの次々押し寄せてくるし。
 …怠い。怠かった。
 地球の人々がこんなところが天国だなんて知ったらウンザリするだろうなぁ…。
 彼の足取りはいつまでも重い。
 気がつくと、道の真ん中で、堂々と仁王立ちでもするように女の子が1人立っていた。
 と、突然、
 シュン!という音と共に彼女の手のひらから鎖が放たれた。
「ふっふっふっ、やっと捕まえたわ。こんな夜中に外出なんかするなよー。」
 彼女は天界で特別警察をしている、姫神亜夏(ひめかみあなつ)という、15の俺より一つ年上の「おねーさん」的な存在だ。
 少年を鎖で縛り上げることが簡単にできてしまうような性格な訳で。今日もそのおねーさん的行動は終わらない。
 「あの…縛り上げてどうするつもりでしょうか……?」
 「え?簡単でしょ?家まで引きずってあげるわ♡」
 即答で返され、引きずられて行く。
 天界でもこんな仕打ちかくそおおおおおぉぉぉ
 心の中で、ありったけの声を出して叫んだ。その叫びは誰に届くこともなく、ただ引きずられるしかなかった。まだ彼の一日は幕を閉じない。

white out…
 雲一つ無い冬空。
 雪を嫌う彼には絶好の運動日和であった。
 あー。バレーとかやりたいなぁ。
 のんきにどうでもいい昔のことを思い出したりしていた。
 しかし、彼は大きな不安を抱えていた。
 「校長に呼び出されたぁ?」
 隣の席に座る少女、雨宮 凪(あめみやなぎ)は狭い教室の中、デカい声で叫んだ。
 0コンマ5秒でクラスの視線が一瞬で集まる。
 「おい…あんたイジメか。」
 凪はワザとらしく意外そうな顔で、
 「だってあの優し~い校長先生が、あの真面目な白鷹君を呼び出すなんて…。ありえないじゃん!」
 バカの話に、次々みんなが押し寄せてくる。
 「まじ?お前呼ばれたの?」
 「よっぽどすげーことやらかしたんだなぁ」
 「ざまぁ」
 白鷹翼揮(しろたかつばき)は、今までかつてないほどの羞恥心に襲われ、周りの音が全部断絶させられた。
 何にも考えられず、彼は無言で立ち上がり、
 ガタンッ!と勢いよくイスを倒して廊下へ飛び出していった。
 「白鷹君…どうしたんだろ…」
 取り乱すのは珍しかった。

 校長先生は、固い面持ちで柔らかいソファの上に座っていた。
 この学校という名の、「戦闘天使育成機関」の長である校長先生は、その気迫と強靭さだけで足がすくむくらいだ。
 ごくり。生唾を飲み込む。
 足の震えが止まらない…
 そんな時、校長先生の重そうな口が開いた。
 「今日、君を呼び出したのには深い理由があってな。」
 ぞくり…背中を寒気が走り回り、胃を締め付ける様な痛みがくる。
  はい。という返事は声にならなかった。
 しかし、そんなものは待たずに校長先生は応えた。
 「君を、今日から正式にアルカンゲロスに昇格させよう。」
 想定外だった。
 天使には、階級がある。
 下から、アンゲロス、アルカンゲロス、アルコーン、エクスーシス、デュミナス、キュリオーテス、トロノス、デュミナス、セラフの9回級だ。
 俺は今までアンゲロスこと、第一次天使の1人だった。
 それが一つ上がりアルカンゲロスになったことは、とても大きなことだ。
 実力も魔法も選択肢も広がる。
 しかし、普通なら昇格試験を受けて合格した者のみが昇格できることを、白鷹は知っていた。
 目の前に、アルカンゲロスの制服が置かれる。
 「君は…ここに来たのはいつからだったかな。」
 「はい…8年前…ですね。」
 「そうか…。白鷹指揮。君には期待できそうだな…。」
 「あの…どうしてこんなに突然??」
 当然の疑問ではあったが、訊くのにはかなりの勇気が必要だった。
 「はは、すまないね。それにはこういう訳があってね…」
 校長先生がソファの後ろから取り出したのは、突くことに特化した、長く鋭いレイピアだった。
 その銀というより白に近いそれに、白鷹は目を完全に奪われていた。
 「この武器は、天使の威光…エンジェリック•グロウと呼ばれる、堕天使を追放する為に作り上げられた最高のレイピアだ。」
 何のことだかさっぱりだった。
 「だ……んしを…追放…。」
 言葉を失った彼の目に、浮かんでいるのは恐怖だけだった。
 「君はアンゲロスでありながら、その戦闘経験や技術に特化している。実力があるとして、敵から目を付けられてはいないだろう。…そこで、だ。君にこれを授ける。その代わりとして、この任務を受け持って欲しい。」
 そういって白銀のレイピアと、小さな紙を手渡される。
 そこに記してあったものは…
 「不法侵入生、抹殺又は追放令。左を施行する対象は、橙田玲慈、アルカンゲロス、クラスD」
 なんだ…これは…?
 「そいつのことは…知っているか、白鷹?」
 「いいえ…わかりません。」
 「そうか…なかなかお前の学年では強い方だと思ったからな」
 何が質問したいのかわからない。
 「校長先生…一体…これは…?」
 一瞬だけ、校長先生の口元が緩んだ気がした。
 その口から、黒い言葉が放たれる。
 「簡単だ。そいつと打ち解けてから、殺せ。」
 校長先生がこんなことを言うのはありえない。と思った。
 いや待て、こいつは俺と同じ学年のやつだ。話したことは無いが見たことはある。そうだ。
 しかし…こいつが、不法侵入生?