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八峰零時のハジマリ物語 【第一章 002】

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  【002】


「あ~疲れた……神沼のヤロウ~、こき使いやがって」

 俺は、生徒指導室に呼ばれ、生徒指導かつクラス担任の神沼に昨日の午後の授業をバックレたことに対しての説教を小一時間程受けた挙句、
「これは罰を与えねばいけないと先生は苦渋の決断ではありますが、零時くんに与えると決めました。決して『教育主任』という名の『肩書き欲しさ』では決して、決して無いということだけはわかってください。零時くんはそこんとこ『察する子』だと先生は信用しています。なので、あとはよろしく!」
 と、少しは誤魔化すくらいの器用さがあれば少しはまだマシだが、そんなものは微塵も感じさせないほどの「お言葉」をもらい、「株上げ」の道具として、晴れて「体育館倉庫の掃除」を命ぜられた。
 神沼エミリ(かみぬまえみり)――俺のクラスの担任であり、かつ、生徒指導も兼任している。
 見た目は、一瞬、「中学生か?」と思うくらいの身長の低さで、また顔も体型と同様なので、より「先生」には見えない。
 だが、実際はけっこう年齢は上らしいと噂があるが、誰も「神沼」の実年齢を知る者はいないらしく、他の担任や校長・教頭に聞いてもすぐに話を逸らすほど「口封じ」が統制されている。
 ちなみに、そんな「中学生風貌」の神沼だが、それとはギャップして、もの凄い「キャリア上昇志向」である。
 そんな神沼が担任のウチのクラスは、いろいろと神沼の「キャリア上昇」の道具にされている。
 今回の「体育館倉庫の掃除」も、教頭の眼鏡に叶うべく、普段から会議の議題に上がっていたこの問題を「教育主任」という「ポスト獲得」のために利用したのであった。
 まったく、見た目に騙されるほどの「貪欲さ」である。

「ふう……やっと終わった」
 時刻は「午後七時」。掃除を始めてから、かれこれ三時間も経過していた。
 やり始めると、つい集中して止まらなくなり、気がつけば、こんな時間にまでなってしまったのであった。
「――ったく、生徒の下校時間をこんなに遅らせてもいいのかよ、あの幼女先生はよ~……ブツブツ」
 などと、普段、遊びのときであれば「午後七時」なんてたいした時間ではないくせに、こういうときだけは「一般の生徒」と同等なつもりで「八峰零時」は、担任の神沼に対して愚痴をこぼしていた。
 まあ、どっちも「似た者同士」である。

「八峰零時」は、俗にいう「不良」である。

 本人は、「ただ無口で目つきが悪いだけ」と思っているようだが、「午後の授業をバックレる」という時点で「不良」と呼ばれたり、見られても仕方がないのである。
 それが、「学校」という「社会」であり、「一般常識」という「社会」の「フワフワしたようで、頑強なルール」でもある。
 もちろん、零時もそれについてはこれまで散々学んできた。
 いくら零時が「売られたケンカを買っただけ」であったとしても、ケガを負わせた相手が両親や先生に泣きつかれれば、「一般常識的に」零時のほうが非難される立場に置かれることがほとんどだった。

 そう――これまで何度も何度も。

 こうして、「ただ無口で目つきが悪いだけ」の八峰零時は、年を重ねるごとに「周囲にあまり関わらないようにする術」を身に付けた……それが、この「不良スタイル」である。
「ただでさえ『無口で目つきが悪い』という、外見的には『必要条件』は揃っているのだ……後は、こちらから相手に関わろうとしなければ、自然と向こうも避けてくれるのではないか?」
 といった何とも「残念な思考の結果」を迎え、八峰零時は今に至っている。
 とは言え、それでも向こうから関わってきた者で、さきほどの「那智高志」と「葛西遊馬」だけは、零時を「普通の友達」として扱い、接してくれていた。
 なので、こんな「残念な思考の結果」を迎えて「不良」となった八峰零時にとって、その二人が「かけがえのない親友」と言っても、それは、そんなに大袈裟な表現とは言えなかった。
「とりあえず、家に早く帰って風呂入ってさっぱりしてー。あ、そう言えば、冷凍庫の中に買い置きしていた『ブルーシール・バニラアイスクリーム』がまだ残ってたよな。風呂上がりのアイスクリームは格別だからな~。さあ、さっさと帰ろ……」

『きゃあああああっ!』
「!……な、なんだ?」
 零時は、一度通り過ぎた路地裏からの『女性の悲鳴』を聴きつけ足を戻した。
「たしか……この辺りから、声が」
 零時は、そのまま吸い込まれるように路地裏に足を運んでいった。奥へ、奥へと。

 奥へ行くと、ちょっとした広い空間があった。ビルとビルの間の通路ではあるのだが、そこはちょうど囲まれたビル群の中にある「エアポケット」のような感じで「縦横10m」くらいの正方形の空間になっていた。
 そこには、一人のフードを被った「男性?」のような人物と、どこかの高校? の学生と思われる女子学生がちょうど空間の真ん中あたりで対峙していた……というより、女性は、右腕を少し切りつけられていたらしく、その部分の服が破けてそこから血を流して半分座り込んでいた。
「フード野郎」は、息が荒く、何と言うか、とても「マトモそう」には見えなかった。
 女性は、腕を切りつけられたショックからか、ただ、身体を震わせ、固まっているようだった。

 シャレになってねーよ!

 そう感じたときには、俺は「フード野郎」から女性を遮るようにして立っていた。
「な、何だ、てめえ! 通り魔か、このヤロウ!」
《フー……フー……フー……》
「お、おい! 話、聞いてんのかよ!」
《フー……フー……フー……》
「……!」
 まるで、会話になっていなかった。
 というよりも、何とも「得たいの知れない感じ」だった。

 一応、俺は、これでも「ケンカ」は強いほうだ。これまで俺は「人から避けて生きよう」と「不良スタイル」を貫いて生きてきた……だから、当然、いろんな「降りかかる火の粉」もあったが、すべて振り払ってきた。それくらいの「ケンカ耐性」はあると自負していた。
 だから、普通のケンカなら「負けない自信」もある程度はあったし、少なくとも「"場"に飲み込まれる」なんてことは無かった。
 だが、情けないことに、このときだけは俺は「"場"に飲み込まれて」いた……つまり、ビビっていたんだ。
 俺と「フード野郎」は、睨み合い牽制状態にあった。二人とも固まっている状態だったのでその間に、女子学生に今の内に逃げるよう指示した。
「おい、女。早く逃げろ!」
「…………」
「お、おい!」
「…………」
 こっちはショック状態のようで、ただ身体を震わせているだけでまるでこっちの声は届いていない様子だった。
 恐らく、彼女一人ではそこから動くことはできないだろう。

 俺は考えた。
「フード野郎」と一戦交えるか?
 彼女と一緒に逃げるか?
 答えは「後者……彼女と一緒に逃げる」
 迷いは無かった。
 というわけで、俺は彼女を手を握り、すぐに後方へと振り向き、全速力でそこから『脱出』を計った。
 犯人との距離は2m。
 そこから俺は、「フード野郎」の不意を突いて振り向きざまダッシュで駆ける。
 俺は「短距離」も結構速いほうだし、運動神経にも自信がある。