小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

宇宙を救え!高校生!!

INDEX|13ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

第7話 両親の記憶



 僕、飛鳥大和に家族はいない。

 いわゆる天涯孤独というやつだ。

 勿論、木の股から生まれたわけでも、コウノトリが運んできたわけでも、キヤベツ畑で生まれたわけでもなく、五歳まではちゃんと人間の両親がいたのだ。

 遺伝子研究の第一人者として世界中を飛び回る父、真之助と、同じ研究者として献身的にそれをサポートする母、愛花との愛の結晶として僕は生まれた。

 僕の誕生を、両親はとても喜んで、カンファレンスや講演会、そして研究所と、ありとあらゆる場所へ、まだ乳飲み子の僕を連れて行き、自慢したそうだ。
 まぁ、子供なのだから当然泣くだろうし、しかも元気な男の子・・・・・・連れて来られた方はさぞや迷惑だっただろうに。

 大和という名前も、日本人のルーツである、大和国にリスペクトした父がつけてくれた名前だという。

 三才になった大和には、「同じ年の友達が必要!」という母の強い願いもあり、長期の出張などの場合は、託児施設や知り合いの家に預けられたりするようになる。

 僕の両親に身内はいなかった。

 一人っ子だった父の両親は、とっくに他界していたし、母は研究所生まれの研究所育ち、つまりクローン人間だったのだ。
 クローンであった母には家族が無く、だからこそ暖かで幸せな家庭や友達といった、人間同士の親密な関係に強く憧れていたようだ。

 幸せだった僕の幼児期が一変したのは、両親を乗せた地球行きのシャトル便が突如として消息を絶ったことによる。

 今から十二年前の四月。火星発、地球行きのシャトル便、コメット717便は順調に航海を続けていた。火星と地球間のシャトル便は週に三便あって、新型ロケットエンジンの搭載、新航路の発見などでかなり時間は短縮されていたが、それでも片道にまる三日は必要だった。

 あと少しで、シャトル便が、地球の軌道に入るというまさにその時に、それは起こった。
 突然何の前触れもなく、シャトル便は忽然と消滅したのだ。
 全く何の痕跡も残さず、跡形もなく消えてしまったのだった。

 事件が起きた直後は様々な憶測が飛び交った。

 突如現れたブラックホールに飲まれた。隕石が衝突した。何らかの機器トラブルがあって、どこかの小惑星に不時着した。といった比較的まともな説から。宇宙人に連れ去られた。
 はては、そんなシャトル便はもとから存在していなかった、などの陳腐な意見に至るまで、ありとあらゆる可能性に対して検証とデータ解析が行われたが、結局のところ何も分からなかったのだ。

 僕の両親を含む、乗客百五十人を乗せたシャトルが忽然と姿を消したという、たった一つの事実を除いては。


 こうして僕は、五歳にして天涯孤独になってしまった。


 しかし、その事を知らされていなかった僕は、いつまでも帰ってこない両親を待ち続けた。

 僕は両親のことが大好きだった。

 長い出張から、両親が帰ってきたら話したいこと、一緒にしたい事が山ほどあったのだ。
 新しく覚えた文字のこと、好きな食べ物のこと、背がのびたこと、初めて見た昆虫のこと、気になる女の子のこと、一緒にお風呂に入りたい、一緒におやつを食べたい、一緒にゲームをしたい、一緒に絵本を読みたい、一緒に・・・・・・・沢山したかったのだ。

 僕がその事件を知り、そして両親が二度と帰らないことに気付かされる日は直ぐに訪れることとなる。

 天涯孤独の存在となってしまった僕は、引き取り手の定まらないまま、託児所で暮らしていた。
 託児所には子供が自由に遊べるプレイルームがあり、そこには様々な遊具や絵本、ゲーム、楽器、テレビなどが有って、子供達が好きに使えるようになっていたのだ。

 その日の午後、僕はテレビを見ていた。

 大好きな戦隊ヒーロー物を毎週決まった時間に見るのが楽しみだった。その日も託児所の園児数人と、テレビの前に仲良く座って大好きなヒーローの活躍を、時に歓声を上げながら仲良く見ていたのだった。

 不意に、画面が切り替わり臨時ニュースが流れ出した。

 ニュースの内容は、突如消滅した火星発のシャトル便、コメット717便についての物であった。
 化学者、技術者、政治家、宗教家などか垣根を超えて対策チームを組織して早期解決に取り組む、と言った内容だったと思う。

 アナウンスされるニュースに時折挿入される映像の中に、行方不明者の代表者的な扱いで僕の両親の写真があったのだ。

「あれ? パパ、ママ。なんでこんなとこにいるの」
 僕は立ち上がると、テレビの巨大なモニターの前で立ちすくむ。

「あたち、知ってるよ」
 そう答えたのは、僕より一つ年下の女の子、悠里だった。

「うちのパパとママが言ってた! 大和ちゃんのハパとママ死んじゃったんだって。かわいそーねって」
 無邪気な顔で悠里は言った。

「うそだー!」
 僕は悠里に駆け寄ると、悠里の左の頬を力いっぱいビンタした。

 その力があまりにも強烈だったため、悠里は床へ勢い良くゴロンゴロンと転がってしまった。

「・・・いたい! うわーん、うわーん」
 突然起こった事態に一瞬戸惑った後、悠里は勢い良く泣きだす。

 その声を聞きつけて、保育士のおばさんが慌てて飛んできた。

「あらあら、いったいなにがあったの?」
 床に突っ伏したまま大泣きしている悠里を抱き起こしながら保育士が尋ねた。

「だって、こいつがパパとママが死んだって嘘つくから悪いんだ!」
 興奮状態の僕が、悠里を指さして叫んだ。

 その僕の言葉と、テレビ、悠里を交互に確認した保育士は、直ぐに状況が理解できたようだ。

「・・嘘・・じゃ、なび・・もん・・・」
 泣きながら自分の正当性を主張する悠里に。

「黙れ! 嘘つき!」
 げんこつを頭上で握りしめ、再び悠里に殴りかかろうとする僕を制して、保育士は諭すように話し始めた。

「大和ちゃんね・・・本当なの・・・大和ちゃんのパパとママが、お亡くなりになったかどうかは今は誰にも分からない、でも突然消えてしまったのよ・・・・・いつかはちゃんと話さなくちゃいけないと思っていたのに、遅くなってしまって本当にごめんなさい・・・・・」

 保育士の話を聞く僕の顔から徐々に血の気が失せていき、そして、話しが総て終わる頃には、膝はガクガクと揺れ、唇は紫色になっていた。

「・・・・・・・・・・・・うそだー!」
 暫く放心状態が続い後に、突然大声で叫ぶと、涙を流しながら、僕は保育士の二の腕にガブリと力いっぱい噛み付いた。

「ギャー!」
 僕が口を開くと、半袖だった保育士の腕から血が滴り落ちた。

 見境の無くなった僕は、次のターゲットを近くに居た別の子供に絞ると、迷いを見せずに飛びついた。

 まるで追い詰められて狂った野生の猿のようだった。

「キャー! キャー!」
 恐怖で逃げ惑う子どもたちの悲鳴と足音が。混乱の酷さを物語っていた。


 その後どうなったかを、僕は覚えていない。


 緊急事態に駆けつけてきた、警備の大人数人によって取り押さえられたらしい。

 僕の暴れっぷりは凄まじく、噛まれて出血した大人と子供が八人。
 殴られた子供が十二人。
 テレビの破壊とおもちゃの破壊。
作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮