エイユウの話~冬~
「壊したいだろう、この学園を」
背筋に悪寒が走り、キサカは振り返りざまに何らかの攻撃を入れる。もう反射的なものだ。しかしどんな攻撃でも男の体をすり抜け、そして男はキサカと鼻がつかんばかりの距離で、キキッと嗤う。
「お前は特別だ。私が手を貸してやろう」
ぎりぎりになって初めて見えるその目は、ひどくにごった泥色で、キサカは吐き気を覚える。
「地下牢に来い、お前なら来れるだろう・・・」
そこではっと毎回目を覚ます。夢なら何回か忘れてもいいだろうと思うのだが、残念なことに、この夢だけは全てはっきりと覚えていた。
そしてそれが、彼の眠れない原因である。
こんな話をしては心配させるだけだと思い、二人には黙っていたのだ。
「もういいだろ」
止めたキサカは、良いように勘違いしてくれた二人に、少し安堵していた。また、恥ずかしかったのも確かだ。失態を取り戻すように、堂々とふるまう。
「ともかく、このまま『じっとしている』なんて、俺はごめんだ」
キサカは見ていなかったが、二人も同意して頷いた。じっとしていられる期間は過ぎたということだ。今動いた所でも、きっと一カ月先くらいの速さだろう。ともなれば、もはや考える猶予はなく、ダメもとでも行動あるのみだ。
しかしそれは同時に、話しあってから行動する時間がないということにもなる。同じ行動を防ぐためにも、三人は行動後はシャウダーで連絡をする、というルールを作った。