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エイユウの話~冬~

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「キサカ、開いたわよ」
 たぶん何度目かの呼びかけだったのだろう。ラジィの呼びかける声が少し苛立っていた。が、キサカの視線は彼女を超えてアウリーに向く。
「アウリー、親父さんに紙か何かもらわなかったか?」
 すると彼女は吃驚して立ち上がった。スカートをパンパンと叩き、ポケットから一枚の紙を取り出した。やっぱり何かもらっていたらしい。言われるがまま、それをキサカに渡す。
「何で解ったんですか?」
「封印の紋だよ」
 キサカが先ほど見つけた紋章が見えるように、二人は後ろから中を覗き込んだ。ほとんど同じ紋がそこにはある。努力家のラジィはすぐに理解できたが、アウリーは首をかしげたままだった。確認がてら、ラジィが言った。
「この紙に書いてある紋と向かい合わせると、一時的に解除されるってタイプね」
 キサカがそれを肯定すると、いまさらアウリーが思い出す。
「あ、そういえば、扉は封印されているからって言ってたような・・・」
 そのセリフを、アウリーは扉自体に刻まれていると勘違いしたわけだが。しかし事実は掃除用具入れに刻まれていたのである。動かなかったのはそのせいで、おそらくキサカとラジィ、アウリーの魔力の総計が封印の紋の持つ魔力を上回ったから動いたと考えられた。いうなれば磁石で止められたプリントを引き抜いたというのが近いだろうか。そんな力業を使ったから掃除用具入れの紋が効力を失ったのだろう。
 ぽつりと、ラジィは二人が忘れかけていたことを口に出した。
作品名:エイユウの話~冬~ 作家名:神田 諷