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能登織 森永
能登織 森永
novelistID. 18299
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ゆめオち

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1,砂漠




暗い。ここはどこだ?

目を開けて真っ先に思ったのがそれだった。
寝坊した朝のように猛スピードで上体を起こす。

砂。俺が目にしたものを表現できるのは、この一文字だけだった。
名も知らぬ写真家の作品で、こんな風景を見たことがある。
肌の見えない服を着た男が、ラクダにまたがりながら砂漠に佇んでいる。そんな風景を。
しかしその砂漠には、俺が今いる砂漠と違ってラクダがいたし、何より月が出ていた。
もう一度、誰でもない誰かに問いかけてみる。
ここはどこだ?

起きる前のことを思い出し、俺は頭を触ってみた。
痛みが無い。どうして?
そう、俺は確実に車にはねられている。
あの時、俺の乗っていた自転車が大破し、吹っ飛ばされた俺は頭を強く打ち・・・。
俺は確かに見た。確かに感じた。
なのになんで・・・。

謎が謎を呼ぶ。そんな言葉を思い出しつつ、俺は立ち上がってみることにした。
足が動いてしまった。動くことなどあり得なかったその足が。
混乱が深まる。
見渡せど見渡せど砂。その白は反射することなく、ただ灰色にその身を染めていた。

もしかして、ここは地獄とかいうところじゃないのか?
でも、俺が知っている地獄は、写真で見た事があるという事実を生まないはずだ。
いや、そもそもあるかすらわからないのだから知ってるも何もないか。
ここが地獄ではないと確証することは、今の俺には絶対にできない。

ということは、俺は死んだのか?
実感が湧かない。だから当然後悔の念もない。
しかも、明日死んだとしてもそれはそれでかまわないという思いが、俺には前からあった。
目標、希望、夢。俺には無縁の言葉だ。
唯一の心残りとしては、まだ童貞を捨てていないことだけだった。
しかしこれは、俺にとって極めて重大な事だ。やっぱり死にたくなかったかも。

考えても何も始まらないな。
そう思った俺は、あろうことか動いてしまうこの足で、この砂漠に足跡をつけてやろうと決意することにした。

地獄すら生ぬるいこの世界の第一歩は、こうして踏み出された。

作品名:ゆめオち 作家名:能登織 森永