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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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 ルチアから借りた馬に乗り、街道をアストゥラビ方面に向かう一行の正面から、先行して警戒にあたっていたクロエが猛烈な勢いで馬を走らせて戻ってきた。
「まずいますいまずい。エド、ソフィア、に、逃げるわよ。」
「え、ど、どうしたのクロエ。」
「あ、あまりにも気持ち悪かったからつい手が出ちゃったのよ。そしたらあいつあたしの手を掴んで『もっと強く殴っても良いのだぞ。』とか言い出して手に頬ずりとかするし!だからもう一発殴って逃げてきたんだけど、あいつ追いかけてくるし!ああっ来た!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてクロエちゃん。一体なんの話?」
「はっはっは!いきなり走りだしてどうしたんだクロエ。ワシはまだお前と遊びたいというのに。」
 黒い巨大な馬に乗って土煙を上げながらクロエのあとを追ってきた、赤毛に褐色の肌をした男性はクロエのすぐ横に馬をつけると、クロエの体をひょいと持ち上げて自分の前に乗せて後ろから抱きすくめた。
「ちょ、ちょっと、やめてください。」
「はっはっは。そう嫌がるな。久しぶりの再会ではないか。うんうん、よい女になったな。」
「うわあああっ髭!髭が!、助けてエド、アレクシス様ぁ。」
「はっはっは、そう嫌がるな。そう嫌がられると、いくら言葉攻めには打たれ強い我でも傷つく・・・む?」
「・・・ったく、自分の魔法で逃げりゃいいだろうが。」
 男性の腕の中から見事にクロエを救出したレオはため息混じりにそう言って彼女を地面に下ろして後ろにかばうようにして立つと、ナイフを抜いて構えた。
「で、どこのどちら様ですかね。見たらわかると思うけど、この子全然男に免疫ないんでそういうのやめて欲しいんだわ。」
「ほう・・・面白い面白い。時間停止の魔法か。」
 手を叩きながら愉快そうに笑ってから男性は馬を飛び降りてレオに近づき手を差し出した。
「すまぬな。今のクロエにお主のような大切な男がいると知っていればあんな強引なことはしなかったのだが。私は、アストゥラビ王国国王、アムルだ。」
「はぁ?王様?あんたが?」
 レオが確認の意味を込めてアレクシスの方を見ると、アレクシスは力なくうなづいた。
「マジかよ・・・。」
 アレクシスの反応を見て、レオが慌ててナイフをしまって跪くが、アムルはレオの手を引いて半ば強引に立ち上がらせた。
「ああ、よいよい。あれは我が少し悪乗りしすぎてしまった。自分の好きな女に目の前であんなことをされれば、怒るのも無理はないからな。許せ。」
「いや、なんか強烈に誤解されてるみたいですけど、クロちゃんは・・・。」
 口を開きかけたレオの背中に、何か尖ったものが押し当てられて、クロエが耳元でささやいてきた。
(そういうことにしておけば、今後ああいうことされそうにないし、そういうことにしておいて。)
(それ、全然お願いする態度じゃなくないか?)
(お願い。嫌だって言うならあんたの気が変わるように・・・とりあえずちょっと刺すわ。)
(んなもん、アレクに頼めよ。)
(そんなこと嘘でもお願いできるわけないでしょう。)
(絶対後で泥沼になる気がするんだけどなあ・・・)
「どうした、何を二人でこそこそしておるのだ。クロエ、お前の相手はなんという男なのだ?我に紹介せよ」
「レ、レオンハルト・ハイウィンドと言うんです。これでも、アレクシス様付きの密偵なんですよ。」
「ほう、では密偵つながりか。なるほど。それはそれは壮大なロマンスがあったのであろうな。敵地に潜入する二人。怪我をしてしまうクロエ。肉薄する敵また敵。『私のことはほうっておいてあなただけでも逃げて。』『馬鹿野郎、お前をおいて逃げられるわけないだろう』ふむ・・・創作意欲が湧いてきたぞ!」
 一人でブツブツ言いながら盛り上がった後で、最後に両手を天に突き上げてアムル王が叫ぶ。
「え・・・えっと・・・?」
「アムル王は国王であると同時に、趣味で演劇の脚本も書いていてね。クロエとレオの馴れ初めを聞いて、何かインスピレーションをうけたんだろう。」
 困惑するレオに、いつの間にか馬を降りて近づいてきていたアレクシスがフォローをいれた。
「ああ、なるほどそういうことか。」
「とはいえ、驚いたなレオ。君がクロエと深い仲だったなんて全然気が付かなかったよ。・・・ソフィアとの事もあるけれど、グランボルカは重婚可能な国だし、問題はないか・・・。」
「ちょっと待てアレク。その話はあとでちゃんとじっくりするから、今はちょっと保留にしておいてくれ。」
「ふむ・・・まさか、クロエとは本気じゃないなんて言うんじゃないだろうね。」
「目が怖ええよ。」
「やめてくれよレオ。君は親友でクロエは可愛い妹みたいな存在なんだ。そんなクロエが選んだ僕の親友の君が下衆な軟派男だったりしたら、僕はとてもじゃないが自分の気持ちを制御する自信がない。本当に洒落にならないことになるかもしれない。」
「・・・制御できないって、具体的には?」
「君の首を跳ねてしまうかもしれない。」
「本当に洒落になってねえ!」
「レオくん・・・。」
「いや。違うんだソフィア。あとでちゃんと話すから。」
「・・・うん、わかってる。」
「そっか。ならいいんだけどさ。」
「そっちがそういうつもりならこっちにも考えがあるから。」
「え・・・?ちょっと待てソフィア。考えってなんだよ。おい。」
 いつもとは違うソフィアの態度にレオが狼狽えるが、そんなレオを無視するようにソフィアはレオから顔をそむけてムスッとした表情のまま何を言っても答えなくなってしまった。
「ところでアレクシス、おぬしの隣にいるのはもしやエーデルガルドか?見つかったという噂は聞いておったが、まさかまたこうして会えるとは思っていなかったぞ。久しいな、エーデルガルド。」
「あ・・・はい。お久しぶりです。アムル王」
「はっはっは。以前のように、アムルと呼んでくれて良いのだぞ。それに、一体何を警戒しておるのだ。感動の再会だ、抱き合って喜び合おうではないか。」
 アレクシスの後ろに隠れるようにして距離をとるエドに、アムルが腕を開いて尋ねる。
「いや、別に警戒してるわけでは・・・。」
「なんだ、昔スカートをまくりあげて上で結んだ事を根に持っておるのか?あんなのは子供のイタズラではないか。さすがに今の我はそんなことはせぬぞ。それに今日はお主もスカートではないしな。はっはっは。」
「アムル。」
「ん?なんじゃアレクシス。」
「・・・エドにそんな無体なことを?」
「はっはっは。子供の頃の話だと言っているだろう。何を怒っているんだ、お前は。」
 ブンという風切り音と共に、目の据わったアレクシスの剣が空を切る。
「・・・許さない。」
「はっはっは。お前は相変わらずおもしろいな、アレクシス。」
 間一髪でアレクシスの斬撃をかわしたアムルはそう言って笑いながら、さらに剣を振るおうとするアレクシスの腕を掴み、そのまま地面に組み倒した。
「本当ならば国際問題だぞ。はっはっは。」
「くっ・・・離せ!」
「はっはっは、お前は少し年上に対する敬意の払い方をいう物を身につけたほうがいいような気がするな。とりあえず、一旦おとなしくなってもらおうか。」