小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

INDEX|6ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

 塀を越え、街中まで侵入してきているのは鳥型の魔物の一団だった。最も魔物対策用の丈夫な壁に守られた大都市において、街中まで侵入してくるのは十中八九飛行する魔物である。どんなに強固な防護壁を造ろうと空を覆うことは出来ないのだから仕方ない。
「リゼ、こんなところにいたのか」
 彼女はメリエ・セラスの門にほど近い家屋の上で、近付いてくる魔物の一団を眺めていた。アルベルトが呼びかけると、リゼは魔物を見据えたまま、
「私がどこへ行こうと勝手でしょう。それより、来るわよ」
 そう言って、彼女は空に向かって一歩踏み出した。魔術を使っているのだろう。あっという間に魔物の飛ぶ高さまで舞い上がると、そいつの頭部を水平に斬り裂く。落ちていくその魔物を蹴って別の魔物へと向かうと、今度はそいつの翼を斬り落とした。
 魔物の死体が砂上に落ちて、砂埃を舞い上げる。残りの魔物達は次々に奇声を上げると、地面に降り立ったリゼに飛びかかった。
 アルベルトは剣を抜くと、リゼの背後に迫っていた魔物を斬り裂いた。続けて右の一匹を薙ぎ払い、並ぶもう一匹の頭部を貫く。その後ろで、リゼも同じように数匹を仕留めていた。
 数は多いが、魔物は二人の敵ではない。少々時間はかかるが、掃討するのは簡単だろう。リゼとアルベルトは剣を振るい、魔物を一体一体着実に減らしていった。
 そんな時だった。街の大通りの方から、一人の人影が飛び出してきたのだ。
「どけどけどけ〜っ!」
 そう言って魔物の群れに飛び込んで行ったのは大剣を持った一人の青年だった。彼はその威勢のいい掛け声そのままに魔物に向かって突進し、大剣で豪快に斬りつける。隣のもう一体に対しても同じように大剣を振るい、文字通り一刀両断にした。
「よし、次だ!」
 青い髪の青年は手慣れた様子でそう言って、次々と魔物を仕留めていく。その剣技は力任せだが、太刀筋は見事なものだ。だが一人でいるせいなのか、背後の守りが手薄になりやすくなっている。青年が魔物を仕留めたその隙に、別の魔物が背後から近づいた。
 しかし、魔物が青年を襲うことはなかった。気付いたアルベルトがすぐさま魔物の頭部を貫いて倒したからである。魔物は紫色の血をまき散らしながら砂の大地に倒れ伏し、動かなくなる。アルベルトはすぐに振り返ると、今度は左から迫ってきた別の魔物を斬り払った。
 熱気に満ちる大地に冷気が流れていく。リゼが生み出した氷の槍が空を駆け、上空の魔物達を次々と貫いていった。
 そしてほどなくして、魔物達は全て倒され、一匹残らず砂の上で動かなくなった。



「助けてくれて礼を言うぜ。ありがとな!」
 魔物を全て倒した後、青年は快活にそう言った。どうやら、彼は例の魔物退治屋らしい。それもあの戦いぶりから察するに、結構長い期間退治屋をやっているのではないだろうか。
「ま、助けなんてなくてもオレ様一人で何とかなったけどな!」
はっはっはと、退治屋の青年は陽気に笑う。自信満々な発言だが嫌味な感じがしないのは口調が底ぬけて明るいからだろうか。少なくとも、青年は人見知りとは無縁そうな人間だった。
「じゃ、オレ急いでるから! あんたらも退治屋だろ? 一緒に仕事することになったらよろしくな!」
 腕をぶんぶん振って、青年はあっという間に走り去っていく。その様子を見たリゼが賑やかな奴と呟いた。
「にしても、あれが魔物退治屋? 組織じゃなくて個人の稼業という感じね」
「そうだな。ミガーではあれが普通なのか・・・」
 民間人がやっているというのは本当らしい。あの青年だけでは判断しようがないが、やはりアルヴィアとは全く違うようだ。魔物退治は生活の安全に重要なことなのに、国は民間人に任せているのだろうか。そんなことを考えていた時、ふいに後ろから声がかかった。
「あの・・・すみません」
 声をかけてきたのは見知らぬ若者だった。旅装が砂埃に塗れていて、どうやらメリエ・セラスに来て間もない様子である。一体何の用なのだろう。どう思っていたら、彼は突然こう言った。
「退治屋の方々ですよね? 依頼してもいいでしょうか!?」
 一瞬、何のことかわからなかった。一拍おいて、退治屋と勘違いされていることに気付く。魔物と戦ってたから勘違いされるのは当然かもしれない。しかし、もちろん二人とも退治屋ではないのでアルベルトは訂正しようとした。
「いや俺達は退治屋では――」
「魔物退治をして欲しいんです! お願いします! 場所はここから北西にあるルルイリエで――」
「ちょっと」
 しゃべり続ける若者を制止してリゼは言った。
「私達は退治屋じゃないんだけど」
「え? そうなんですか!? 魔物と戦っていたからてっきり退治屋の方かと・・・」
 自分の勘違いに気付いたらしい。若者はそう言って口を閉ざした。・・・と思いきや、
「いや、この際退治屋じゃなくても構いません! ルルイリエの魔物を退治してください! お願いします!」
 と、勢いよく頭を下げる。どうやら非常に切迫しているようだ(町が魔物の被害にあっている以上当然の事だが)。別に急ぐ用事もない。困っているようだし、依頼を受けてもいいのではないかと考えていたら、返事がないことに不安になったのか、若者は目の前のリゼににじり寄ってあろうことか泣きついた。
「お願いしますよぉ! 本当に困ってるんですってばぁぁぁぁぁ!」
 とりあえず必死さだけは十分伝わってくる若者の訴えに、二人は結局、話を聞くことにしたのだった。



 ルルイリエの町は砂漠にあるにも関わらず水に溢れた町だ。その水源は町の南西に広がるルルイリ湖である。さして大きな湖ではないが、その水量は驚くほど多く、ルルイリエを十二分に潤しているのだという。その上、
「・・・涼しいわね」
 ルルイリエの町に入った瞬間、砂漠特有のうだるような熱気が消え去ったのだ。日差しは相変わらずきつく暑いことは暑いのだが、メリエ・セラスに比べればよほど過ごしやすい。
「でしょう? ルゼリ砂漠にある町の中でルルイリエほど過ごしやすい町はありません。王都を除いてですけどね」
 ルルイリエの町を歩きながら、依頼人の若者・トニーは誇らしげに説明する。なんでも彼はルルイリエの祭司の一人らしい。
「それもこれも、セクアナ様のご加護のおかげなんです。太陽神ルーフ様と湖の神セクアナ様のおかげでルルイリエは栄えているんだ」
 ミガー王国は多神教国家だ。国家の守護神は火女神イリフレアだが、その他にも多数の神を信仰している。太陽神ルーフを始め、メリエ・セラスの船乗りの間では海の神リール、商人の間では雄弁の神オグマ―――神の姿は多彩であり、あらゆるものに神が宿るという。そしてルルイリエでは太陽神ルーフの他に湖の神セクアナが信仰されているのだ。
「セクアナ様・・・?」
「はい。ルルイリ湖に住まうこの町の守護神です。広場に噴水があったでしょう? 中心の彫刻はセクアナ様を模したものなんです」
 確かに広場の大きな噴水には髪の長い女性の石像があった。じっくり見てはいなかったが、祈りを捧げる人々に水を分け与えるような構図だったと思う。しかし、そんなことはどうでも良い。
「それよりも、退治してほしいっていう魔物はどこにいるの?」