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放課後シリーズ

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「ねえねえ、そこの彼氏ぃ、良かったら、覗いてかない?」
 覗いたことがそもそもの始まり。弓道部と言う物珍しさと、「即レギュラー」と言う言葉に釣られて入部した杉浦を待っていたのは、サボり魔・森野のお守り役だった。一年の時は基礎練習を嫌ってサボる彼を探して走り回り、二年では主将となっても変わらない彼の尻拭いで、部の運営を押し付けられた。
 何度、心の内でキレてちゃぶ台をひっくり返したか知れない。しかし現実でキレなかったのは、森野皓の『射』を知っているからだ。
 平均的で、取り立てて恵まれた体格ではない森野だが、その射は他を寄せ付けない圧倒的な気を放っていた。並外れた集中力が、周りを支配する。
 お守り役を押し付けられ、一番多く彼の射を間近で見てきたにも関わらず、杉浦の射はむしろ、基本に忠実な上芝知己と似ていた。彼の射が初心者には恰好の手本になると言うこともあったが――森野の射は唯一無二。誰にも引けない、誰をも寄せ付けない。
 今、目の前にその森野の背中がある。引き分けた両腕が、大きな翼のようだった。
 この『射』に惹かれていた。この『気』に惹かれていた。気圧されそうになりながらも、近づかずにはいられなかった。
 杉浦は踏み開く自分の足に、力を込める。




 微動だにせず、見つめるのは四寸の星(=的の中心)。
 気力を保ち、欲を捨て、迷いを払い、秘めた想いを鼓舞する。
 すべては次の、ただ一瞬のために、無限とも例えられるその静止は在った。




 上芝知己は、不思議なほどの静けさを感じていた。この三年間、感じることの難しかったそれが、高校最後の行射で蘇る。
 一人置いての前方には、森野皓が立っていた。相変わらず、圧倒的な気が場を制している。この気に中てられ、上芝はいつも平常心を保てなかった。
 入部して初めて見た時の森野の射は、まったくの素人のものだった。練習嫌いで姿がすぐに見えなくなる。当然、上達するわけがなく、退部するのも時間の問題だな…と誰もが思っていた。
 いつの頃からか、そんな森野の射が変わる。練習嫌いのはずの彼の姿を、道場で見かける時間が増えたかと思うと、次に上芝が意識して射を見た時には、まるで違う気を放っていた。
作品名:放課後シリーズ 作家名:紙森けい