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フェリオス年代記996

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フェリオス年代記996 2の月 第二話 檻の中の少女ヴェロニカ



オルシュティン教会神学校の中庭に一人、くすんだ色のローブを着た車椅子の少女が太陽の光が顔にあたるのを気持ちよさそうにしながら佇んでいた。
季節は冬だったがここのところ雪は無く、まだまだ空気は冷たいものの呼吸するたびに心地よい空気が肺を満たす。
まだあどけない表情をした車椅子の少女は盲目だった。 真っ暗闇の世界で皮膚に伝わる太陽の熱と大気の冷たさと肺に染み渡る空気とその香り、そして音。
それが彼女の世界のすべてであった。
小一時間ほどもそこにいただろうか、体も冷え切り彼女をここに連れてきたシスターも用事があると言うとどこかに行ってしまったため最初は心地よかった環境も今や彼女に苦痛を与えつつある。
いつものことだ。
と彼女は口には出さずだまって耐えていた。
語りかける対象がいるのかいないのかもわからない。
もしかしたらあたたかい室内からわたしを見ながら笑っていたらどうしよう。
と、おそろしい思いがあたまをよぎるが大きく首を横にふり、頭に浮かんだ光景を振り払う。
人に頼る事しか出来ない、迷惑をかけることしか出来ない、母とも父とも離れもう二度と会うことも無い。
彼女はいつも悲しかった。
でも、彼女は信じていた。
いつかきっとオルシュティン教王が伝える主神が彼女にきっと手を差し伸べてくれることを。
たとえその時が自身の死の間際だったとしてもきっと救ってくれると彼女は信じた。
その気持ちがなければ彼女はきっとかなしみに耐えられなかっただろう。
そして何年かの年月が、いつも悲しい彼女をだれよりもやさしい人間に育てていた。
だが同時に簡単に手折られる野の花のように、はかないほどの強さしか彼女は持ち合わせていない。
とそこへだれかが自分に近づいてくる足音がきこえた。
ここにつれてきてくれたシスターかな?
「ただいま、ヴェロニカさん」
車椅子の少女は自分の名を呼ぶ懐かしい声のした方向に振り向き笑顔を浮かべる。
「ルイーザちゃんおかえりなさい!心配したよ!怪我とかしてない?旅はどうだったの?」
「わたしは大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう」
ルイーザはルームメイトのヴェロニカのそばまでくるとそっとヴェロニカの肩に手を置き、続いて手を握る。
「・・・・・・ヴェロニカさん、お部屋にもどって旅のお話でも聞いていただけませんか?」
「あ、う、うん。ちょうどお部屋にもどりたいなーって思ってたの」
「じゃあちょうどいいタイミングでわたしが来たみたいですね」とやさしい声でルイーザは言った。
「うんうん。いいタイミングだったよ!ルイーザちゃんの旅のおはなしもきいてみたいし」
「ではもどりましょう」
「はーい」
ルイーザはそこまで話すとヴェロニカの車椅子の後ろに回り神学校の宿舎まで車椅子を押していく。
お世話していたシスターは誰ですか?とルイーザは聞きたい気持ちを押し殺していた。
聞かなくても返事はわかっている。今用事ではなれたばかり、とかわすれちゃったと言うに決まっているのだ。
ルイーザはヴェロニカを二人の部屋まで連れて行くと車椅子の後ろからやさしく抱きしめた。
「どうしたのルイーザちゃん?」
そういわれても何も言わずに抱きしめたままヴェロニカの冷え切った体の体温を確かめる。
「なんだか急になつかしくなってしまって・・・ごめんなさいねヴェロニカさん」
「ええー、いいよいいよあやまらなくても!あたしもいやじゃないし」
「よかった。それじゃあもう少しこのままで…」
「うん」
しばらく二人はそのまま佇んでいたがヴェロニカが胸に回されたルイーザの腕に手をふれると、ルイーザはゆっくりと抱きしめていた手を離した。
「じゃあベットに移しましょうね」
「あ、うん」
ルイーザは今度はヴェロニカの前に回りこみヴェロニカをかかえてベットにすわらせると隣の自分のベットに腰を下ろした。
「ありがとうルイーザちゃん」
「お礼は言わないと約束したでしょう。わたしとヴェロニカさんはおともだちなんですからね」
「てへへ、そうだったね、わすれてたよ」
「そうですよ!」とわざとおこったふりをしてルイーザは言った。
「でもね、こころのそこからありがとうって思うとね、うっかりありがとうって言っちゃうんだよ!」
「そうでしたか、それではうっかりしたときだけはお礼を言ってくださいね」
「うん!ありがとうルイーザちゃん」
「あっ、またうっかりしちゃいましたね」
とルイーザが言うと二人は同時に笑い出す。ヴェロニカはルイーザと一緒にいるときだけは素直な自分を出すことができた。
「あはは、じゃあさっそくきかせて!」
「はい」
ルイーザはフォッジアス王立兵学校の小隊と行動を共にしたこと。
そして悪い人と戦ったことを順序良く丁寧に話していく。
村人や騎士団たちが皆殺しにされていたことを除いては、だったが。
「ルイーザちゃんはすごいね!わたしもこんな体じゃなければお手伝いしたかったなー」
それを聞いたルイーザは少しためらう様子で口を開いた。
「…あなたさえよければ一緒に戦えますよ…」
「え、でも…私は目も見えなくて、足もその…」
「…目も見えるようになって足も治ります。…でも…」
「でも?」
「私と永遠を生きて戦ってもらわないといけません。いえ永遠ではないです。正確には私たちの世界で消滅するまでは」
「え?ルイーザちゃんの世界?えーとルイーザちゃんは教会に正式に認められた聖女なんだよね?悪魔と戦う。この世にいる悪魔と戦うって事なの?」
「この世でも天国でもずっと。私の命が尽きるまで、ずっと。共に」
「ずーっと一緒なの?」
「片時も離れません」
ヴェロニカは一瞬考えこむような仕草をしたがすぐに上を向き力強く言った。
「わたしルイーザちゃんとずっと一緒にいる。ううん居たい」
「…いいのですか?契約を交わすともう戻れませんよ。契約を破ると死よりも悪い結末を迎えることになりますよ?それでもいいのですか?」
とルイーザは優しく尋ねるとヴェロニカが少し俯き加減でこたえる。 「うん!…でも、あの、ルイーザちゃんが嫌じゃなければ…だけど…」
そう言われたルイーザはまぶたを閉じ、何も言えなくなる。
「…わたしもずっとヴェロニカさんと居たい、楽しくお話をしたい…と…思います。…ずっと。この世界にあなたほど優しい方は…いないでしょう。…でもわたしと共に来るということはきれいごとだけじゃすまないんです…」
「…………」
よほど言いたくないのか所々途切れがちにしゃべるルイーザとヴェロニカも返答に困ったのか沈黙で答える。
「敵は悪魔だけではなく、時には人を切り殺してその命を絶つことが必要になるかもしれない、それがどれだけ心の負担になるか考えたことはありますか?」
「…………」
「わたしはあなたをすべてから救う事は出来ません。今の現状からは救えますがまた別の、今度は永遠に近い苦しみをあなたに与える事になると思います。なので、わたしは嫌です。」
と、こんどはヴェロニカの目をしっかりと見、断固とした決意でルイーザは言い放った。
それを聞いたヴェロニカは少しの間を置いてルイーザに尋ねる。