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寿司戦士 シャリダー01

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第一話「俺の名は寿司」



 俺の名は、寿司。

 え?いや、「すし」と読まないでくれ。俺の名、寿司と書いて「ことぶき つかさ」ってぇ読むんだ。

 俺、寿司職人なんだ。まだ見習いけどね。俺、今日も修行先の「源五郎寿司」で、朝から晩まで働いている。

 カウンターに立って、俺達下働きの一挙手一投足に睨みをきかせている老人、源五郎寿司の大将、松平源九郎(まつだいら げんくろう)。俺の師匠だ。

「おい奴(やっこ)!なーにぶつくさ言ってやがんでい!口動かす余裕があんなら、もっとシャキシャキ働かねぇか!」

 いけねっ。怒られちゃったよ。どうだい?強面だろう?うちの大将は。だけどアレで結構面倒見がよくて、実は気のいい親っさんなんだぜ。

 俺、こうして寿司屋で下働きしているけど……俺……実はただの見習い職人じゃあないんだ。

 君達にだけは、俺の正体を話しておこうと思う。

 俺……実は俺……

*****

「おい司!配達だ。三丁目の江戸前田さんとこにな」

「はい……え?江戸前田さんって……いつものご隠居さんですよね?珍しいですね。お店にいらっしゃらないだなんて」

 江戸前田のご隠居、立派な白顎髭と、これまた立派な禿頭のコントラストが、とても好々爺然とした印象に見える、超の付く常連さんだ。毎日のようにこの店にやってきて、カウンターの一番端っこに座る。

「なんでも体調がすぐれねぇらしい。ご隠居の好物の鰯の握りを詰めといたから、持って行ってやってくれ。おう、これが住所だ」

 大将がメモをピラピラと宙に振る。俺はそいつを受け取って、威勢よく。

「へい、行ってきやす」

 出前に出る。

*****

 俺は岡持ちをしっかりと握り、揺らさないように水平に固定しつつ、小走りにご隠居のお家に向かう。

 キョロキョロ……

「いけね…・道を間違えちゃったかな?」

 メモの通りに歩いてきたつもりだったんだが、何処かで道を間違えてしまったようだ。

「遅くなるとまた大将の雷が落ちてくるなぁ……それにしても何処なんだ?ご隠居のお家は……」

 俺、塀の前に立っている。立っているといより、さっきから塀の周りをぐるぐると行ったり来たりしている……

「それにしても大きなお屋敷だなぁ」

 目の前にある塀、真っ白な漆喰塀だ――まるで、時代劇に出てくる武家屋敷みたいなお屋敷だなぁ。なんて俺、思っていた。

「ん?」

 お屋敷の門、表札が目に付く。

「……江戸前田……えどまえだ?……え?ひょっとしてここがご隠居の家なのかぁ?」

 どううやら俺、ずっとご隠居の家の周りをぐるぐる回っていたようだ。

「まさか、あのご隠居が、こんな立派なお屋敷に住んでらっしゃるとは……」

 こう言っちゃあ失礼だがご隠居、俺には、とてもお金持ちには見えなかった。人は見かけによらないものだ。

「こんちゃーーーー!」

 門の前で大声を上げる俺、仕方がない。インターフォンがないのだこのお屋敷。

 …………

 返事がない。というか、いくら大声で呼んでも、お屋敷の中までは聞こえそうもない。それほどにこのお屋敷の敷地は広い。

「まいったなぁ……」

 俺、門の前でまごまご。五分くらいまごまごしていた。

「ええい、仕方ない!入っちゃおう」

 このままでは、せっかくの寿司が傷んでしまう。俺、敷地の中に入ることにした。

「ご隠居さーーーん。江戸前田のご隠居さーん」

 俺、大声で呼びながら、敷地をウロウロ。

「おおぅい……庭に回ってくれぃ」

 ご隠居の声。体調が悪いと聞いていたが、意外に元気そうな声だ。

「へーい、行きやーす」

 俺、庭に回った。すると、縁側に腰掛けているご隠居の姿が見えた。

「おう、寿の字(じゅのじ。寿司の仇名)。まぁこっち座りな」

 ご隠居、お茶を飲んでいた。

「へい、いや……遅くなってすいやせん。道に迷ってしまって」

 ご隠居、ご自慢の白ひげを撫で付けながら俺に言う。

「迷ったというより、この屋敷の周りをぐるぐるしとったんじゃないのかい?」

 俺、ご隠居の慧眼に恐れいった。

「へい、その通りで」

「ふぉっふぉっふぉ」

 ご隠居、頬を赤らめて笑った。

「まぁええわい。暑かったろう。もう五月じゃからなぁ。冷えてるよ。飲みな」

 ご隠居、俺に茶を勧める。

「いえ、お言葉に甘えたいところですが、これ以上帰りが遅くなると、親方にお目玉食らっちまうんで……」

 俺、丁重に断った。

「ええんじゃ。源さんにゃあ俺が話つけとくよ……というよりな寿の字よ、今日はお前さんに話があって、源さんに無理言って、わざわざ使いに寄越してもらったんじゃ」

「え?話?俺にですかい?」

 俺、驚く。確かに江戸前田のご隠居、常連さんだし、知らない仲じゃあないが、改まってナニコレと、膝詰めて話をした事はない。

「まぁ座りない」

 仕方なく座った。

「飲みない」

「へい、じゃあ頂戴します」

 ずずず。緑茶は、キリリと冷えていた。爽やかな茶の香気が緑の風となって、鼻腔の奥にまで突き抜ける。

「……で、お話といいますのは?」

 俺、ちょっとビビっている。ご隠居、一体何を言い出すのやら……

「いや、話と言うのは他でもない……その……寿の字、お前さん何年になる?」

 ――源五郎寿司に勤めて何年になるのか?ということだろう。俺、答える。

「五年になりやす」

「ほー、そいつぁ立派だね」

 俺、褒められて嬉しい。でも謙遜した。

「いやぁ、まだまだヒヨッコです。大将の仕事に比べたら俺のなんか……」

 ご隠居、目が一瞬鋭く尖る。

「ふぉっふぉふぉふぉ。そりゃそうじゃ。源さんと自分を比べちゃいけねぇよ。あの人は、超の付く名人だからねぇ……人間国宝だよありゃあ」

 俺、自分を褒められた時より嬉しくなった。

「へっへへ、まっことその通りです」

 かぁー

 鴉が鳴いた。もう日が暮れだ。

「この五年ばかし、お前さんの働きっぷりをな、俺ゃあ十分に見学させてもらったよ。アンタは、筋がいい。さっきはああ言ったが、いずれ源さんの腕前に追いつくことだって、あり得ない話じゃあないと俺ゃ思っているよ」

 勿体ないお言葉だった。

「……精進しやす」

 俺、そう答えるのが精一杯。

「そんなお前さんを見込んでな……お願いがあるんだ」

 そら来た!俺、身構える。

「へ……なんでがしょ?」

「お前さんにな……ある仕事を引き継いで欲しいんじゃ……」

「仕事……でやすか?」

 俺、寿司屋で手一杯だ。

「いや、仕事といってもな。その、寿司屋と掛け持ちで、別の仕事を請け負えと言っているわけじゃあねぇんだ……んー、なんてったらいいかなぁ……そのぉ……」

 ご隠居にしては珍しく、歯切れの悪い調子。俺、気遣う。

「他ならぬご隠居の頼みですし、俺、出来る範囲の事でしたら、やらしてもらいますよ」
作品名:寿司戦士 シャリダー01 作家名:或虎