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戻らない時間【詩集4】

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きみに捧ぐ



あの日止まった時計は
今も動かない
きみはもう戻らない

なにを恨めばいいのだろう
誰を憎めばこの気持ちが晴れる?
むなしく時は過ぎるばかり

ぼくはなぜ今も生きているのだろう
きみのいない世界で
死ぬことすらできずに

何のために生まれてきたのだろう
きみのいない世界に
生きる意味などないのに

最後の言葉が今も耳を離れない

いきて
あなたは生きて欲しい
たとえ何があっても

それが私の生きた証だと
きみはそういったね

その言葉の意味は今も分からないけど
今もそれを探して生きている
きみはまだぼくを見ているのだろうか
はるかなその世界から



あれから長い長いときが過ぎた
ぼくの髪も髭も真っ白に変わった
きみにはもうぼくが分からないかもしれない

あれから長い長い時が過ぎ
ぼくはひとりではなくなった

片時もきみのことを忘れたことはないけれど
ぼくの傍らにはやさしい人がいる
なにも聞かずにただそばにいてくれる人

たくさんの子どもが生まれた
その子たちにもまた
たくさんの子どもたちが生まれた

近くにいるもの
遠くへ旅立ったもの
中には思い出したように
うちへ戻ってくるものもいる
ぼくにはおおぜいの家族ができた

きみの言葉を今も思い出す

願いをかなえることができたのだろうか?
心をくむことはできたのだろうか
その言葉の意味を理解できたのだろうか


これが正しい選択だったのか
それとも裏切りなのか
ぼくには今もわからない

おおぜいの家族に見送られて
ぼくもはるかな空へ旅立つ日が来るだろう

きみはいまもぼくを見守ってくれているのかい?
きみはぼくを見て何というのだろう

人生を悔やんではいないよ
きみをうばった神に恨みをいだいたこともあったけど
つらい記憶も
苦しみも悲しみも
今は懐かしい思い出に変わった

大きな喜びも
小さな安らぎも
いつかきみが教えてくれた


いきて
ただ生きてほしいと
きみはそういったね
他には何もいらないと

その言葉がぼくを生かしてくれた
だから今日まで生きてこれた

すべての愛と感謝をきみに
ぼくにいきることを教えてくれた
愛することを教えてくれた

この祈りを
今もただひとりの
きみに捧ぐ

作品名:戻らない時間【詩集4】 作家名:maki