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Parasite Resort 第一章

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「……といった高い放射線量が観測されていおり、周辺の住民は、避難生活を余儀なくされていおります。先月末、広島県東広島市志和町に落下した隕石、『ベルゼビュート』が広島市民に与える影響は、まだまだ続きそうです。では次はお天気コーナーです」

「隕石……」

 意味なく呟いて、TVを消した。

「いっそうちの大学に落ちてくれればなぁ……」

 不謹慎な発言をアパートの一室に響かせたその途端、iPhoneが振動した。マリンバの着信音が必要以上に陽気に鳴る。誰かが「アミーゴ!」と叫ぶ声が架空に聞こえた。それらをBGMのように、しばらく放置して鳴らしておいてから、ぞんざいに手に取る。耳に押し当てる。アルミのカバーが耳に触れ、ひんやり体温を奪う。

「クロ?今何してる?」

 どこにあるのかも分からないくらい小さなiPhoneのスピーカーから聞こえてきたのは、女性の声。それはアルミケースの質感に似た金属的な声だった。

「嗚呼……明日出すレポート書いてる」

「嘘でしょ」

「……お前の事を考えていた」

「それも嘘」

「本当だよ。なんなら今からうちに来る?」

「……辞めとく。私もレポート書かなきゃだから」

「……そう。って言うか何の用だよ?」

「別に。用がないと電話しちゃ駄目なの」

「駄目じゃないけど……俺も忙しいから」

「そうなの?でも気分転換に私との会話を楽しむぐらいの余裕はあるでしょ?」

 玲子らしい頭良さげな言い回しだなと、旦(ただし)は思った。
 
「……無い……と言いたいけど……」

「ふふふ」

 しばらく玲子とトークした。特に内容のない会話だった。しかし、何故こんなにも心がほぐされるのだろうか?旦は、巡る血液がどんどんと新しい酸素を取り込んでリフレッシュされていく実感に酔いしれていた。

「……ありがと玲子。お前と話しているとなんか頭の回転数が戻ってきたよ。正直煮詰まってたんだよね」

 モニターに浮かぶ書きかけのレポート、そのぶつ切れに終わっている最終文字を眺めつつ、後に続くべき文字を頭の中で既に書き始めている旦。

「ねぇ、お礼は言葉だけ?それとも明日の朝食を奢ってくれたりするの?」

 思わず旦は、口元をほころばせた。

「OK!じゃあ珈琲館で」

「うん。いつもの時間ね」

 それで電話を切った。

「ふー」

 深呼吸する。黒い髪がサラサラと吐息に巻き上げられて束の間滞空した後に、ゆっくりと黒縁眼鏡のレンズの上に覆いかぶさってきた。

「さて……やりますか」

 この後夜半まで、部屋にあった音といえば、広島大学理工学研究部の院生、黒家 旦(くろいえ ただし)が、テンポよくキーをタイプするカチャカチャという音だけであった。

 そして夜明け前、地平線で太陽が準備運動をしている頃合い、ささやかな寝息がスースーと部屋に満ちていた。

*****

 夢を見た。

 真っ赤な肌の女、短い銀髪、真っ赤な瞳、短く笑って、旦の眠るベットに潜り込むと、体を重ねてきた。その行為は、SEXではなかった。女は最初、旦の体に自分の体を押し当てるように覆いかぶさっているだけだったのだが、次第にその体に、その赤いマグマ染みた色に相応しい激しい熱を宿して、それが延々と感覚的にはとてつもなく長い時間続いたように感じた挙句に、ゆっくりと侵食するように、旦の体に入ってきた。砂漠に水を零したように、旦の体に赤い女のカラダが吸い込まれていった。

 目を覚まして、旦は愕然とした。

 夢精していた。



作品名:Parasite Resort 第一章 作家名:或虎