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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 花木宙蔵と桜子の夫婦、そしてクラブママの洋子、さらに加えればルリ。
 霧沢は、これらの四人たちの間に多分複雑な関係があったのだろう、そう想像を巡らし、「わかった、じゃあ、遠慮なく頂いて帰るよ」と答えた。その後霧沢は少し気を落ち着かせ、あらためて室内を眺める。

 すると違い棚の奥に、大事そうに飾られてあるもう一枚の絵、霧沢はそれを見付けた。
 その絵はなんと、この和風の奥座敷にはまったく不釣り合いな男と女の情交の絵。
 目を凝らすと、その背景には濃紺の大空へと龍が飛翔し、それを桜吹雪きで大きく包み込んでいる。そしてその下で、男女が激しく絡み合っているのだ。

 筆使いは直線と曲線を駆使し、肉体が熱いタッチで描かれている。そこから受ける印象としては、男女の愛欲は美しい、されど重い。そんな表現の形で描かれた絵、これまで見た憶えがない。
 霧沢は急に興味が湧き、それが抑えられず、「あれ、立派な絵だね、ちょっと見せて下さい」と言い、桜子が「どうぞ」と返してくると同時に、腰を上げ歩み寄っていった。

 絵の左下には〔桜龍の契り〕と書き込まれてある。
「桜子さん、この絵、この座敷の雰囲気とはちょっと違うようだけど、おうりゅうと読むの、それともさくらりゅうと言うの、どっちなの? こんな立派な絵、誰が描いたの?」
 霧沢は不思議に思い、思い切って立て続けに訊いてみた。桜子は霧沢に突然見付けられ、かつ質問され、少し戸惑っているようだ。しかし、しばらくしてあっさりと、小声で囁く。

「どう読んでくれてもいいんよ。だけど、私なにかほっとするんよね、その絵、好きなんよ。実はね、光樹が描いてくれたの」 
 霧沢は光樹と聞いて、思わず「うっ」と言葉を詰まらせた。後はぐうの音も出ない。まるで乱気流の中へと巻き込まれてしまったかのように、乱れた思考で脳が攪乱されていく。

「光樹、光樹、……、滝川光樹。画廊の御曹司で、学生時代は女の子に人気があった。だけど割に純なヤツで、しかし宙蔵の事故死の前夜、大きなキャンバスを十枚マンションに届け、翌朝、宙蔵の出品作品を取りに来た。そしてその現場に立ち会った。そんな光樹の絵が……、どうしてここにあるんだよ?」
 霧沢の脳細胞がこんな疑問で埋め尽くされていく。その上に、もう一つ奇異だった。「光樹って、こんな絵を描いてたかなあ? あいつの絵は、いつも細かい写実だったよなあ」と思い出す。

 霧沢は止めどもなく湧き出てくるこれらの疑問が脳内を巡り、放心したかのようにきょとんとしている。しかし桜子は、霧沢がそこにいることを忘れてしまったのだろうか、独りぼそぼそと呟く。
「私の人生だもの、好きなようにするわ。……、支えてくれそうだし」