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プリンス・プレタポルテ

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3.アーネスト



ぬるいが重い空気の底から徐々に寒々とした空に上がる感覚。潰れそうな体が酸素を求めていた。大きく息を吸い込んだ。知らずと圧迫されていた肺が膨張する。ようやく思う存分呼吸が出来る。

 脚に絡まるとろとろとした空気は、まだ未練がましく身体を引き摺り下ろそうと。気がつけば空間からはみ出した両腕も。手首から徐々にまとわりつき、いつの間にか肘の辺りまで侵食されていた。まるで掌に錘を握らされたようで、体が反り返っていく。肩の骨が鳴り、緩慢な痛みが走る。

 体の全てが緩みきっているので、口を動かすのも一苦労だ。やっとのことで薄く唇を開くと、口の中に生温かい空気がもぐりこんでくる。望んでいたのは、冷たい外気。この温度は心地よいが、だからこそまずい。もう既に熱いが乾いた舌が、その感覚を歓迎している。かろうじて形を保っていた肉体の内側が循環し、新たなものに生まれ変わる予兆に。好奇心は焦りをあっさりと屈服させ、為すがままに任せることにした。形を持たないはずの気は一直線に喉深くまで入り、柔らかい力で気管を押し開く。すぐに体の奥ではじけ、末端にまで微弱な生気を与える。あまりにもか弱い刺激だが、少なくとも、まだ生きていることは実感できる。