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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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「それから、よろしければシーツを」
 彼は抱えていたシーツを掲げてみせた。
「お忙しければ、また後で伺いますが」
 まだ逸らされたままの善良な瞳が若さを表し、ベアトリスは思わず身体の力を抜いた。
「いいえ、いいの。お願いできるかしら」
 身をずらすと、自分といくつも年の変わらないベルボーイは心底罰の悪そうな表情を浮かべて敷居を潜った。
「いつから切れてたの、電気」
「そうですね、昨日の夜の11時ごろだったか……夜更けまでちょっとした騒ぎになってましたが、お休みでしたか?」
「ええ。早くに寝てしまったから」
 開いたままのトランクをベッドの下に押し込み、ベアトリスは青年に向き直った。
「直る?」
「修理しておりますが、業者を呼びに行くにもこの状態なので…」
 寄せられた眉に答えてか、窓の外で銃声がとどろく。思わず腕を抱え込んだ。青年が近寄ろうとしたのを無理に微笑んで拒絶し、強く歯をかみ締める。縋ってはいけない。ここで助けを求めたら、二度とこの部屋に一人ぼっちで過ごすことなんか出来なくなってしまう。
「大丈夫、これくらい」
 優しく悲しげな眼差しを浮かべた後、青年はベッドに戻りシーツを広げた。
「じゃあもう、明日からはシーツも代えられなくなるのね」
「いえ、当ホテルは手洗いで洗濯しておりますので」
 手際よくシーツを剥いでいく手が、光の下へ出ては入り、皺を伸ばしていく。アーネストのものよりも繊細だった。けれど大きく長い指の形はよく似ている。それだけでも、彼女を優しく愛撫する恋人の手を連想させるには十分すぎるほどだった。
「まだ水道管は無事ですから、明日もお届けいたします」
 明日でなくてもいい。その言葉を無理やり飲み込み、ソファに身を投げ出した。