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プリンス・プレタポルテ

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7.ベアトリス



 音に飛び上がった。日は昇り、カーテンの隙間から突き刺す光線は白々と向かいの壁を照らしている。巻きつけたシーツが腕を締め付け、もがきながら身を起こした。頭が重かった。目の前を、スパークでかたどった星がほたるの如く飛んでいる。
 部屋は白い。ハバナに降り注ぐ太陽の光は、アメリカと違い色がついていた。子供が絵筆で塗ったように均一で、力強い白色に。荒っぽい熱は一年中人々の心を焼き、乾かし続ける。それを潤すために、スコールがやってくるのだ。「雨季になればガラっと変わる。一日中じめじめして……インドでは、豪雨の度に服を脱いで外に飛び出したものさ。天然のシャワーだ」。娘へするように頭を撫でながら、窓の外を見ていたアーネストの横顔を思い出し、胸が苦しくなる。
 何一つ、昨日の朝と変わるものはなかった。シーツの上に片腕をつき、彼女は強張っていた肩の力を緩めた。静かに響く偏頭痛が、素敵な陽気を台無しにする。きっと、耳鳴りに違いない。ドアを叩く音。彼の訪れを告げる、素敵な合図。
 再びノック。息を呑む。今度こそ彼女はベッドから飛び降り、ドアまで飛んでいった。
足に絡まるシーツを蹴飛ばし、椅子に掛けてあったカーディガンを掴む。目の前のトランクの角に脛をぶつけても痛みを感じる暇がなかった。
 

 勢いよく開いたドアの向こうで、昨日シーツを取替えに来てくれたベルボーイの青年が驚いたような表情を浮かべた。ドアノブを握る手から力が抜ける。打った脚にも、じわりと痛みが広がり、彼女はドアに身を凭せかけた。
「なぁに、朝から」
 力ない声は思ったよりもはっきりと廊下に響く。若く、ひょろりと痩せて、背もそれほど高くない。何もかもがアーネストとは正反対だった。大体、冷静なときならすぐにわかったはずだった。彼がこんな朝早くから戻ってきたときは、いつも彼女を驚かそうとこっそり部屋に忍び込み、突然頬にキスをして悲鳴を上げさせるのだ。
「モーニングコールを……いえ、あの、発電機が壊れて内線が通じなくなったので、直接お伺いしました」
 目の前の健康的に日焼けした肌が赤くなったことで光で透けたネグリジェを思い出し、慌てて握り締めたカーディガンを羽織る。
「そう、そうだったわね。ありがとう」
 やはり電気は途絶えたらしい。彼の身体越しに見る廊下も照明は灯っておらず、静閑な薄暗さはますます不安を煽り立てた。