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プリンス・プレタポルテ

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 膝の上に落ちる雫はすぐに温度をなくし、湿度の高い部屋の中で薄い寝間着が不快さばかりを与えていった。ベアトリスは震える手を叱咤し、留め金に指をかけた。思ったよりも大きな重量が腕に掛かる。少し逡巡した後、勢いよく押し上げた。


 広がった先に見えたのは、彼が気に入っていた麻のシャツ、黒のズボン。クリーニングから届いてせっかく綺麗に折りたたまれたものを乱雑に詰め込もうとするので、彼女が毎回丁寧に入れなおしていたものだ。すぐに彼が好んで使っていたコロンの匂いも広がり、涙はますます頬を伝う。



 どこに行くのか。聞くたびに彼は不機嫌そうな表情を浮かべたが、政治情勢に疎いベアトリスには、何度話を聞いても革命の重大さや、この国における彼の位置づけを理解することは出来なかった。
「この前説明しただろう、ビー」
 数日の逗留期間はあっという間に過ぎ去り、またもや旅支度を始めたアーネストはアルコール摂取過剰の息で吐き捨てた。
「俺達は今、歴史的な瞬間に立ち会ってるんだ。この前スペインでは」
 しゃっくりが飛び出し、ベッドサイドのグラスから水を煽る。
「あの時は撮影が入って連れ戻されたが、今回は違う。俺は、一つの国が変わる瞬間を見届けるんだ」
「じゃあ、私も連れてって」
 歪んだ顔を隠すように、ベアトリスはアーネストの腰に腕を回した。
「どうして一人で出かけるの」
 不安と、胸が壊れそうなほどの愛情をめい一杯こめ、ここ数年で肉付きの良くなった男の体にしがみつく。
 アーネストは疲れ果てた呈で身をよじり、ベアトリスの細い髪に指を絡ませた。
「君みたいに可愛い女の子が行ったら、どんな目に遭うか。心配で生きた心地がしないよ」
 見上げた先にあったのは、昔スクリーンで見て、ずっと憧れ続けていたものと寸分変わらぬ甘い笑顔だった。ロビン・フッド。インディアンと果敢に戦うカスター将軍。アメリカ中の少女の胸を焦がした、快活な美男スター、アーネスト・ファウラー。
 出会ってから1年と少し経つが、未だに信じられなかった。撮影所に出入りを始めたばかりだった16歳の小娘が、大スターに見初められるなんて。
「本物の銃弾が飛び交う危険な場所だ。それに、カストロは女好きだからな」