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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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しばらくして一博からメールが来た。
“加奈子のやつ、切れて八つ当たりしてる。何か言ったのか?”

美香は一博のメールを無視した。しばらくかかわりあいたくなかった。加奈子にああ言ってはみたものの、問題は自分がどうするかなのだ。
まだ煮え切れなくて愚図愚図している自分が嫌だった。
不倫の初めはドキドキしたトキメキがある。だけど、二度目の結婚をしたからってすべてがうまく行くとは思えない。
それは結婚というものがどういうものかわかっているからだ。しかし一博なら今の健三より少しはましなパートナー関係が結べそうだった。それは間違いないと確信している。
じゃ、何が自分を引き留めているのだろう。子供だろうか・・・いや。愛着未練だろうか・・そうかもしれない。捨てることに慣れてないだけなのだ。健三と同じく生活環境がこの歳でがらりと変わるのを恐れているのだ。
美香は自分を分析しながら、どうしたらいいか考えた。
やっぱり加奈子が健三を奪ってくれるのが一番なんだ。そうしてもらった方が踏ん切りが付きそうだった。
それに一人になった健三の心配もしなくていい。愛着のあるおもちゃだったけど、次に大事にしてもらえるならいい。そうだ、加奈子に健三をあげよう。そしたら、一博を奪ったこともチャラになる。不倫したという後ろめたさも引きずらなくてよくなる。夫婦交換すればいいのだ。美香は都合よく自分の考えをまとめた。

 その晩、美香はずっと考えたが、その考えが一番だと納得した。答えがおぼろに見えると不思議なことに家への執着、愛着もそれほどではなくなった。
やっぱり感傷的になると未練たらしくなるもんだと思った。
健三が加奈子と一緒になり、私が一博と一緒になる。夫婦交換が一番いいじゃないと落ち着いた。
同級生の四人が夫婦になり、初恋同士でやっと結ばれる。これも何かの縁なんだと美香は都合よく頭を切り替えることにした。心の中の重たい物が少し軽くなった。先が見え始めると俄然、力が湧いてきた。
 美香は冷蔵庫を開けると、自分の一番好きなものを作り始めた。




翌日、美香は一博に電話した。
「おはよう」
「あれ、なんだか元気がいいな」一博が言った。
「ねえ、加奈子いる?」
「ああいるけど」
「代わって・・」
「・・・なんでだよ。どうしたんだ」
「いいから、代わって」
一博はリビングにいる機嫌の悪い加奈子に「美香から」と言って携帯を渡した。

「もしもし」
いったい何の用事だろうという警戒した低い声で加奈子は言った。
「もしもし、加奈子?昨日はごめんね。言い過ぎたみたいでほんとにごめん」
「・・・・・」
「あのさ、この前加奈子、私に健三とのこと応援してって言ったわよね」
「・・・・・」
「よく考えたんだけど、加奈子と健三が一緒になるのが一番幸せと思ったの」
「どうして?」
「だって好きだったんでしょ。好きな人と一緒になるのが一番いいことと思わない」
「・・・・・」
「最初びっくりしたけど、ほら、不倫の事もあるから応援しようかなって思って」
「美香が気が楽になりたいだけでしょ」
「・・・・そう。それもある・・・」
「どうするつもり?」加奈子が美香に聞いた。
「まず、健三の生活パターン全部教えるわ。好きなものから嫌いなものまで。それから癖や心理状態とか全部知ってるの教えるわ。情報があった方が責めやすいでしょ。それにわからないことがあったら全部教えるから。ねっ、利用して」
加奈子は美香が何故そう言うのか考えた。
健三がいない方が一博と一緒になりやすいっていうのか・・。
それは自分も同じだ。一博がいなくなったから健三に向かえるのだ。
そう考えればわからないでもない。
「・・・わかったわ。じゃ、健ちゃんをすっぱり捨てるってことね」
「そう、好きにして頂戴。でも加奈子ががんばって。夫婦交換よ」
「夫婦交換?」
「いつだったか、したじゃない。ほらこの前の旅行の時。あの時の続きよ。今度はもっと真剣だけど」
「わかったわ。私もいずれこうなる運命かなって思ってた。私たち結婚相手がずれてしまってただけなのね」
「そう、ずれてただけだわ。修正しましょ」
「うまく行くかな」加奈子が珍しく自信なさげに言う。
「3対1よ。どうにかなるわ」
「じゃ、絶対裏切らないで応援してよ。私達がうまく行くまであんたたちも一緒にさせないから」
「えっ・・・」
「しばらくホテル禁止にして頂戴」
「はっ?」
「その方が真剣に応援するでしょ」
美香はいつも加奈子はタダでは済まない、どこか計算高い女だと思った。
「約束よ」
「・・・・・わかったわ」
加奈子を心配そうに見ていた一博に、加奈子は携帯を渡した。

「もしもし、どうなってんだ?」一博が聞いた。
「あっ、うん、加奈子と共同戦線張ることになっちゃった。詳しいことは加奈子に聞いて」
「共同戦線?健三の事か?」
「うん、まあ・・・。あっそれからね、しばらくホテルに行けないから我慢しててね。浮気したら駄目よ。好きだよ一博。チュッ」
美香の元気な声はそこで途切れた。
いったいどうなってるんだ一博は困惑した。
加奈子の方を見ると加奈子も力がみなぎっている。どうしたんだ・・・。
一博は加奈子の手招きに呼ばれて、加奈子がいるソファーに恐る恐る近づいて行った。