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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 翌朝、健三は早く家を出た。美香は午前中また掃除をした。何も考えたくない時は掃除が一番心が落ち着く。掃除機をかけていると携帯が鳴った。一博からだった。
「もしもし」
「あっ、俺、一博。昨日はどうだった?」
「別に何もなかった。嘘ついたから」
「嘘?」
「うん、一博と仕事の事で会ってるって言った」
「仕事?」
「うん、スタジオが忙しいから手伝ってほしいって。相談受けてるって」
「・・・・浮気や別れのことは言わなかったの?」
「・・・・言いづらくて言えなかった・・・」
「それで、なんにもなかったの?」
「・・・・うん、そういうこと・・・ごめんね」
「・・・別に謝らなくていいよ。誰だって自分から言いにくいさ。修羅場じゃなくてよかったよ」
「でも、・・・困ったな」美香はこれからの事が気が重くて憂鬱だった。
「加奈子はどうしてる?」気分を変えて聞いてみた。
「あ〜〜、もう荷物まとめてるよ。よっぽど出ていきたかったんだろ」
「そう、行動力あるね・・・」
「でも、あいつが知ったら、どうするんだろ・・」
「何が?」
「美香がその家出て行かないと、健三と別れないとあいつ許さないだろ」
「・・・・そうかもね。ちょっと今から考えてみるわ」
「あっ、美香・・・元のさやに戻るってことないよね」
「・・・ないわ、安心して・・・じゃ、あとで」
そう言うと美香は電話を切った。
はぁ〜とため息をつき、問題がだんだん山積みになっていく気がした。


夕方になり、また一博から電話がかかってきた。
「もしもし」
「あっ、俺、一博。加奈子が話しをしたいって」
そう言うと無音になり、誰かに変わる音がした。
「ちょっと、美香。約束が違うじゃない」
加奈子の声が電話もとで響いた。
「あっ、ごめん・・・健三も忙しいみたいで・・・」
「どうせ言えなかったんでしょ自分から」嫌味な言い方だ。
「私から言ってあげようか不倫の事」
いちいちカチンとくる。あまりにの加奈子の言い方に反論したくなった。
「あのさ加奈子。健三と一緒になりたいんだったら私が認めるから健三を口説いてみたら? 加奈子ががんばっても健三が振り向かないとどうにもならないでしょ。それに私の浮気で嫉妬させて、その隙に奪おうってわけ?」
「その隙にってどういう意味よ。こそこそしたのはあんたの方でしょ」
「嫉妬や同情で気を引いて、本気で好きになってもらえると思う?こそこそが嫌だったら、加奈子こそ正々堂々と健三の気を引いてみたら?」
とりあえず美香は言いたい事を言って挑発してみた。そして、さらに言った。
「健三の事はいつでもあげるって言ってるのよ。自信がないの?」
「・・・・あなたがいない方がやりやすいわ」
トーンダウンした加奈子が言った。
「奪うほど自信がないのね。寂しさに付け込んでどうにかしようと思ってたわけね」
「つ、付け込む気なんかないわよ・・・」加奈子のテンションが落ちる。
「じゃ、やってみなさいよ。私はいいと言ってんだから。それにうちもどうせ夫婦生活は破たんしてるみたいなもんだから、今更、邪魔したりしないわ」
美香は言いながらほんとかしらと自分で思った。
「・・・・」
「どうなの?裸になっても誘えないの?」調子に乗って言ってしまった。
「・・・・あんたみたいにホイホイ裸にならないわ!わかった、また後で電話する」
加奈子はそういうと一方的に電話を切った。
 美香は自分の携帯を見て、あら、言ってしまった・・・と思った。