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増えるストーカー

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 午前0時のこと、一人の女性が暗闇から街灯の下にその姿を露わにした。
 肩にかかる程度のストレートの黒髪にスーツ姿、肩から下げた皮革製のカバン。どうやら勤め先からの帰り道であるようだ。しかしなんと不用心なことだろう。深夜の女性の一人歩きもそうだが、この住宅街は街灯の数が少なく適切な明るさを確保できていない。中途半端にある分だけ、暗闇が濃くなり逆効果になっている始末だった。
 その証拠に、彼女の姿が明りの輪から外れると暗闇に消えてしまう。30回目の足音の後、一つ先の街灯の下に再び彼女は現れ、輪から外れるとまた暗闇の中へ。
 ふと彼女はとある街灯の明かりの中で足を止めた。電信柱に看板が掛かっていたのだ。読み終わったのか彼女は再び歩き出す。心なしか、靴音のテンポが速くなっていた。
 看板にはこう書かれていた。
『ストーカー続出中 夜間の出歩きはご遠慮ください ○×組合』
 歩きながら、彼女は何度も背後を振り返っていた。
 振り返る度に、彼女の靴音は速くなる。
 そのうち靴音は乱れ、間なく打ち鳴らされるようになった。
いくつもの街灯を通り過ぎても彼女は止まらない。整っていた髪は乱れ、うなじには汗が浮かんでいる。乱れた呼吸音に悲鳴が混じるのが聞こえる。肩からかけたカバンは持ち主を容赦なく叩き、足をもつれさせようとしているかのようだった。
 せき込みながらも彼女は足をゆるめない。まるでストーカーにでも追い立てられているかのように走り続けていた。
 二つ先の街灯の下に十字路が見えた。
「だ、誰かっ、誰かーっ!」
 喉をしぼるように彼女が叫んだ。
 彼女の普段の行いが良いのか、右側から自転車で警邏中の警察官が姿を現した。彼はすぐに、女性の尋常ならざる様子に気が付いたようだった。
「君、何をしているのか分かっているのか!」
 警察官は途中で自転車を乗り捨て、しがみついてきた女性をその背中へ隠した。
 女性は崩れ落ちながら上ずった声で叫んだ。
「この人、ずっと追いかけて来たんです!」
「ストーカー行為の現行犯で逮捕する!」
 警察官はそう言って、あなたを組み伏せその両腕に手錠をはめた。
作品名:増えるストーカー 作家名:小豆龍