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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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After Tragedy4~志~

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しばらくしてから、僕らは朝食を採ることになった。
「これは?」
僕は具がないスープを掬った。スプーンで、かき混ぜても、かき混ぜても、中身が全然出てこない。
「消えちまったよ。こんなにじっくり火にかけたこと無かったからさ。」
キロは割と気にしていない様子でそれを口に運んでいた。
「お母さん、早く火が通るように小さく切ってくれたんだって。」
キュオネは笑顔で僕に説明してくれた。
どれだけ刻むとこうなるのだろうか。
「それでさ、まあ、申し訳ないんだけどさ…。」
キロは、器を置いて僕の目を見た。
「やっぱりこちらにいるのは厳しいですよね…。」
僕は、先にキロが言いたいだろう言葉を先回りして言った。
「そうなんだよな…。正直、デメテルに説明をして貰ってもちょっとな…。確かにあんたは悲劇神話の研究をしていることは分かった。でも、本当にあたしの息子…シーを大事に思っているのか信用出来ないんだよね。」
僕は頭が真っ白くなった。良くも悪くも、僕がシー兄ちゃんのことを大事に思っているのは誰もがよく理解をしてくれていた。疑われる日が来るなんて思いもよらなかった。
「だって、あんちゃん、赤ちゃんの時にずっとレーニスに面倒見て貰っていたんだろ。普通に考えれば、レーニスを奪ったシーは憎いだろうよ。シーが殺していない証拠なんてないんだからさ。」
キロは僕を睨み付けながら言った。
「シー兄ちゃんは、レーニスを殺してないです。だから…。」
僕は極めて冷静に答えようとした。その矢先に椅子が飛んできて壊れた。
「!!」

僕は一瞬何が起こったのか理解が出来なかった。

椅子に気を取られている間に、キロはテーブルを薙ぎ倒し、僕の真ん前まで来ていた。それはほんの僅か一瞬だった。
「お母さん!?」
「キュオネ!あんたはそこを動くんじゃないよ!!」
キロは僕の胸ぐらを掴んでいた。
「こいつがキュオネのことを黙っていられるとは信じられない!!」
首筋に冷たい感触がする。 家の出口はキロの後ろにあって遠い。 キロとドアの間で青ざめているキュオネの顔が見えた。このままじゃまずい!!僕は咄嗟に身体を捻ってキロから離れた。
キロの手にはナイフがあった。
「今でなくても、いつかあたしらが憎くなる日が来るに違いない!!それまでに、あたしはあんたを始末したい!!!」
 キロは僕にそう怒鳴りつけた。
僕は慌てて反射的にさっきキロに投げらて折れてしまった椅子の脚を手に構えた。
「あたしゃ、もう誰も信用なんかしないんだ!大切な人を失いたくもない!」
キロはヒートアップし、あたりのものをなぎ倒し、壁に腕をたたきつけた。壁には穴があいた。せっかくとったはずの距離があえなく縮まる…。身体が動かない。余裕が無くて言葉が出ない。
「デメテルは甘過ぎる。だから、レーニスをあんな風に亡くしてしまったんだ。でも、私は違う!キュオネを守って見せる!!」
キロは斬りかかってきた。僕は寸前のところで何とか持っている椅子の脚で防いだ。
「ちょっと待って下さい!お願いです!」
「待つわけがないだろ!?」
キロは僕の鳩尾に殴りかかってきた。それを寸前のところで交わした。
「僕はキュオネさんのことは絶対に言いませんから!」
僕は叫んだ。
「言葉で言うのは簡単だ!信じられるか!!」
キロはすぐに次の攻撃を繰り出していた。ナイフが脇のあたりを掠る。
「お母さん止めて!その人はシーさんの無罪を証明しようって本当に頑張っていたんだよ!!」
キュオネが叫ぶのが聞こえる。
その間もキロの手は止まらない。僕は、走って逃げて、それを防ぐので必死だった。
「無罪を証明?キュオネ、甘いよ。14年間そんなことを続けられる訳がない!!」
その時、顔に激痛が走った。キロに顔面を殴られて、僕は壁に追い込まれた。
「何を根拠に14年間正しいかどうかも分からないことの研究が出来る?出来ないね!!」
キロのナイフが首をかすった。首から、生暖かいものが流れる感触がする。鋭い傷みも感じる。
「早くシーの無罪を証明してみせろ!やってみろよ!」
キロの罵声とともに繰り出される攻撃を寸前のところでかわす。もの凄い動悸とともに、身体はガタガタふるえ、まともに力がはいらない。
「こんな腰抜け、そのうち、考えなしにキュオネの出生について言いだすようになるに違いない! キュオネのことを村の人間にさらして、それで『シーとレーニスは愛し合っていたので殺していないんです』って!! シーがレーニスを殺していない根拠なんて何処にある!? 出てこない答えを探して、いずれキュオネの命を危険に晒すのが目に見えてる!」
壁とキロに僕は挟まれた。ナイフは僕の真横で壁に刺さっている。もう動けない…。脚が固まって、手も震えている。キロを突飛ばすことですら出来そうにない。