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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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After Tragedy4~志~

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「違う!これはシー兄ちゃんが書いたんじゃない!!」
僕は当時の村の長であったトイの父親から、シー兄ちゃんの亡骸の傍にあった手紙を奪い取った。辺りは血の海になっていて、シー兄ちゃんはもう明らかに生きているようには見えない。 周りの村の人の目が冷たい。汚らわしいものを見るような目でシー兄ちゃんを見ている。僕はあきらめきれずにシー兄ちゃんの身体に縋りついた。

「シー兄ちゃん、起きてよ!イヤだー!」

お決まりの夢で目が覚めた。嫌な汗をかいている。僕はおでこにジトっとへばりついた汗を手で拭い、大きく天井に向けて伸ばした。胸がヒリヒリして、身体が重い。 シー兄ちゃんが亡くなって、もう14年もの歳月が流れているのに、僕には昨日のことのように思える。
記憶はぐっと更に濃さを増し、幾分か着色をされ、僕の中で何度も擦り直しされている。

ふと辺りをみると農具や縄が並んでいるのが見える。差し込んでくる日差しに埃がキラキラ光って綺麗だ。僕はトイ…ライ達夫婦の幸せを願い、昨日からキュオネの家に厄介になることにした。キュオネは普通に母屋に泊まるように言ってくれていたが、キロが難色を示したので、僕は物置小屋で過ごすことを提案してみた。キロは、怪訝そうな顔をし、無口だったが、キュオネが押し切り、僕は物置小屋で寝起きをすることになった。
今までいたライたち夫婦の豪華な部屋に比べ、寝心地は悪いがどちらにせよ僕は長年いい夢を見ていないので、寝ることに対して拘りはない。むしろ、未だにシー兄ちゃんの無実を証明できない僕はここで十分なのかもしれない。
適当にばらついた髪をまとめた。物置小屋をでるとすぐ脇に母屋が見える。ドアをノックすると、キロが出迎えてくれた。
「よっ!」
昨日とは打って変わって、キロは笑顔で僕を出迎えると僕を室内に招き入れた。
ドアを開けて直ぐ、僕は異変に気付いた。部屋の奥にあったはずのベッドがドアの直線上に置かれている。その上に明らかに起きたばかりと言った雰囲気のキュオネがモコモコと布団の中で丸くなり、目をこすっている。のんびりとした表情で僕を見ると微笑んでくる。
「奥のベッド移動されたんですか?」
昨日は奥の部屋にあったベッドが玄関に直結した部屋に置かれている。僕は不思議そうにそれを眺めた。
「敵が攻めこんだ時に気づけないだろ。逃げ出すにはあの部屋の小窓は小さすぎる。」
キロは当然といった雰囲気で、僕に説明をしてきた。心持ち得意気な顔をしている。
「ここは、すごく平和でのどかな農村なのですが…。」
僕は僅かばかりひいてしまったのがバレないように、キロにさりげなく話をしてみた。よく見るとベッドの下に置かれた毛布は人が真ん中でくるまったような形になっている。
「そんな風に油断している馬鹿が一番最初にやられるのさ。」
キロは顔を高らかに上げ、自信満々に僕に言ってくる。
僕はキュオネが寝ているベッドの下で明らかにキロが見張っていたのだと確信をした。
ここは神殿に最も近い土地であり、治安はとても良い場所だ。確かに悲劇神話以降、多少風紀が悪くなってしまってはいるが、ただ寝ているだけで命が危険にさらされるような場所ではない。 僕も昨夜はキュオネが周りからどう見られているか焦ってはいたが、きっと僕ですら無駄に警戒し過ぎなのだ。
「おはよ〜、ユクス。」
キュオネは、やっと布団から身体を起こした。僕は、そんなキュオネの姿形を思わずジッと見てしまった。
「お…おはようございます。」
ぎこちなくなってしまった。確かにキュオネから、シー兄ちゃんやレーニスの面影を感じる。昨日は夜遅くまで、キュオネのことをあれやこれや考えていた。僕は、レーニスからもシー兄ちゃんからもキュオネの話を聞いたことがなかった。二人のことを調べていても、特にそういった文献を目にしたこともなかった。レーニスは亡くなる直前に神殿に籠っていた。その時にキュオネが生まれたのかも知れなかったが、やっぱり人間と精霊の間に子供が誕生するのだろうか。僕は、まだ完全にキュオネがレーニスとシーの間の子供であることを信じられず、悩んでいた。そもそも仮に二人の子どもだったとして、どういった会話をすればいいんだ?狼狽えている僕の気持ちなど気にも留めず、キュオネは、パタンともう1回ベッドに突っ伏した。
「まだ、寝ていてもいいと思う?」
キュオネは枕に顔を埋めてキロに聞いた。スカートの裾が捲れて、白い脚が多目に見える。僕は慌てて視線を反らした。
さっきまで、シー兄ちゃんのことを考えて、あんなにも悲しい気持ちになっていたのに、僕は何をやっているのだろうか。恥ずかしい。
「キュオネ、何このあんちゃんを誘惑してんのさ、起きな!」
キロは僕の視線に目ざとく気が付いたのかキュオネに起きるように促した。僕は既に目を逸らしたのだから、露骨に言うのを勘弁して欲しい。
「ちょっとお母さん、かえって捲れちゃうよ〜!」
キロは、キュオネの服を引っ張っているようだった。
「あの…僕、一旦外に行きますね!!」
僕は居たたまれない気持ちになってしまった。いい歳なのに、そういう風に言われることに狼狽えている自分が更に恥ずかしくて仕方がなかった。でも、僕はシー兄ちゃんの汚名を晴らすのに一生懸命で、そういったものに悲しいくらい免疫が無かった。
ドアを閉めて、 辺りを見渡すと春ののどかな景色が広がっていた。 生暖かい風が僕の頬を撫でる。ドアからは、少しだけキュオネとキロが愉しそうに会話している声がしている。

何だか、僕だけがここから隔離されているような気がした。まだ、今朝の胸の痛みは若干残っていた。