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悠久たる時を往く

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 彼はアリューザ・ガルドを放浪し、腕の立ちそうな人間を見つけたが、その者は聖剣を持った途端に心をうち砕かれてしまった。聖剣自身にも何らかの意志が存在し、所有者たる資格を持つかどうか試練を与えるということをレオズスは知った。そして聖剣を持つに値する者を捜す旅が困難を極めることも。

 しかしやがてレオズスは、ついに望んでいた人物を見いだす。その者こそイクリーク王朝の血統を持つ、レツィア・イナッシュであった。



[イナッシュの勲]

 レツィア・イナッシュはアントス家の一族、イナッシュ家の末裔であった。この時代のイクリーク王朝は傀儡と成り下がっていた。しかしレツィアは国王となるとすぐに、魔族に抗うべく、ひそかにエシアルル王ファルダインやドゥローム、アイバーフィンの長達、さらには地下に潜む反乱同盟(冥王に従うことを良しとしない者達の集まり)にまで連絡を取り合い、現状の打破を目論んだのだ。だがこの目論見はザビュールを恐れる者達によって露見してしまい、イナッシュは王座を失い、流浪の身となったのだ。
 後ろ盾をなくしたイナッシュを殺すべく、刺客が数多く送られるが、イナッシュはこれをすべてうち破った。しばらくはイナッシュの消息は知れないものとなった。

 それから二年後、彼の名は再び世に伝わるようになる。冥王の代行者であり、大要塞タス・ケルティンクスの王ともなったアルツァルディムを倒したのだ。イナッシュの力はディトゥア神族にも匹敵するほど、人の持ちうる力を超越していたとされる。そうでなければ天魔を、すなわちもとディトゥア神族を倒せるはずがないのだ。
 その彼のもとに現れたのがレオズスである。レオズスはイナッシュに聖剣を渡そうとした。すると聖剣はするりと、イナッシュの手に収まり、まばゆく光り輝いたのだ。ガザ・ルイアートはイナッシュを所有者と認め、彼にさらなる力と、土の民セルアンディルとしての能力をもたらした。
 イナッシュはレオズスと共に、タス・ケルティンクスの深淵に降り、ついに魔界の領域にたどり着いた。

 光り輝く聖剣を手に、イナッシュとレオズスは魔界《サビュラヘム》の深層部にて、冥王と対峙することとなった。
 冥王の力がいまだ癒されていないとはいえ、その存在感は圧倒的なものであった。彼の姿は神々しいまでに美しいが、その美しさは人間の想像をはるかに超越したものであり、ひとめ見ただけで魂までも消去される。また、冥王の一挙一動すらも畏怖に値し、人間の体は容易にうち砕かれる。彼の話す一言は、強大な魔法となって襲いかかるであろう。
 ザビュールとの戦いはどのような言葉をもってしても語ることが出来ないほど、事象を超越したものであり、かつ熾烈なものであったが、ついにイナッシュはザビュールの胸元に聖剣を突き立て、冥王をうち倒したのだ。

 かくして、人間の手によって冥王は倒された。しかし完全に滅ぼすことは出来ず、イナッシュとレオズスは聖剣を用いて封印を施した。これによりガザ・ルイアートは持ち得る力を使い果たし、以来、失われた大地の帰還に至る千年余に渡り、所在が知れなくなる。



[イクリーク王朝の終焉]

 アリューザ・ガルドからは魔族が消え去っていき、空を覆う暗黒がうち払われた。同時に、太陽と月と、くすんでいた色ももとに戻り、ようやく世界はあるべき姿を取り戻したのだ。
 タス・ケルティンクスを封じ、地上に戻ったイナッシュは再び王座に座るが、数ヶ月して彼は自ら王座を降りた。イクリーク王朝に幕を下ろす時が来たと考えたイナッシュは、執政家のアズニール家に王権を譲渡し、自らは隠遁することとしたのだ。この後のイナッシュについては定かではないが、レオズスと再会し、彼と共に世界を巡ったとされている。
 これ以来、“イナッシュの勲”として吟遊詩人が彼の武勲を語り継ぎ、今日に至るまで世界の至るところでうたわれている。

 新王でありイナッシュの信頼が厚かったオーウィナク・アズニールは、没落していた王朝の体制をまとめあげ、イクリーク王朝の正統な後継として、アズニール王朝を興すのである。






作品名:悠久たる時を往く 作家名:大気杜弥