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四神倶楽部物語

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 初冠雪、桜花爛漫、蝉時雨、野分、紅葉狩りと、季節は毎年忙しく巡り行きます。そしてその容赦のない季節の移ろいの中で、人たちは通勤、会議、出張、残業などからなる業務を絡ませながら、幸い小説のネタになるほどの事態に遭遇することもなく、多忙でありながらも淡々と毎日を暮らしています。

 実は私も、そんな人たちの中の一人かと思っていました。しかし、この穏やかとも言える日常を破って、私の身に起こったのです、まことにミステリアスな出来事が――、次から次へと。そして最終的に、これらは私に与えられた宿命へと導く一つ一つのステップだったとわかりました。

 そう、その発端は一年前のことでした。桜の時節もあっと言う間に終わり、新年度として、私どもの会社の業務遂行もより拍車がかかっていました。その証拠に、他の企業と同様、私の会社でも毎年恒例、お決まりの経営トップから新年度に向けてのプレゼンがありました。
 目的は従業員全員に新年度の目標を周知させることにあります。達成に向け社員一丸となり邁進せよと檄(げき)が飛ぶ、まあ言ってみれば、一種の儀式のようなものでありまして……。
 とはいえ、私も当然それを重く受け止め、新たな気持ちで仕事に頑張りたいと気合いを入れ直したのであります。

 おっと、自己紹介が遅れました。私は高瀬川龍斗(たかせがわりゅうと)と申します。世間ではそこそこ名の通ったネット通販の会社に勤めております。当社は、高級嗜好のお客さま専用の会員制ロイヤルクラブ・絆愛(はんあい)なるものを運営していまして、私はその部門の上級スタッフとして働いています。

 このクラブは昨年よりさらに遡ること三年、当社の目玉としてスタートしました。自画自賛になるかも知れませんが、私たちスタッフの努力もあり、順調に会員数を伸ばしてきておりました。しかし、ここへきて少し中だるみ状態、つまり会員数が伸び悩み、苦戦しておりました。

 されども結果は結果ですよね。そこで経営から打ち出された新年度の目標は、会員数の30%アップ。
 もちろん理解していますよ、甘えは許されないと。それにしても、まあ、いつものことですが、経営トップは現場の苦労を無視し、高い目標の設定し放題ですよね。そんなのちょっと、目標と希望は違うぜ、と叫びたい気持ちにもなりましたが、こちらは滅私奉公のサラリーマン、文句は言えません。

 その上、私はこの仕事が根っから好きでして、だから上からのプレッシャーをネガティブにとらまえず、それを自分への天の声と解釈し、挑戦し頑張ってみようと思っていました。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊