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「舞台裏の仲間たち」 32~33

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 「あら、ごめんなさい、
 起こしちゃったみたいで。
 いいわよ、そのまま横になっていて頂戴、
 疲れたでしょう、長旅だったもの。」

 「いや、もともとそれは覚悟の上の旅だ。
 弱音を吐いたら、茜さんや石川さんの好意にたいして申しわけがない。
 正直、本当はすこしだけ腰が辛いけどね、
 でもまあ、我慢できる範囲だよ。
 それより、どうしたの、ずいぶんと早い帰還だけど・・・。」

 「良いものを見つけたから、
 順平に見せたくて、散策中のお二人には断って、
 途中から戻ってきちゃった。
 ちひろの画集と、日記の『草穂』を見つけたのよ。」

 そのままの姿勢でいいからと、
レイコが横たわったままでいる順平の足元までやってきます。
座布団を二つ折りにして順平のあごの下へ差し込むと
買ってきたばかりのちひろの画集を、その前に拡げます。

 「順平。
 もしかして、また絵が書きたくなったのと違う?
 ちひろを見始めてから、目の色が変わり始めました。
 もう、絵かきの血が騒ぎ始めたかしら?。」

 「まさか、もうデザイン熱は一段落したよ。
 俺の実力では、飯を食えるところまではとうてい到達しない。
 もうそれは、決着済みの話だ。
 今の俺は、プラスチック金型の設計と製作の方がよほど性にあっている。
 未知の分野の仕事だけど、探究心と向上心が、
 どちらも適度に求められるために、自分なりに満足できる仕事だよ。
 これも自分の『天職』のひとつかなと最近は感じているくらいだ。
 金型は面白いし、取り組み甲斐のある仕事だ。」

 「そう、それならいいけれど・・・でもびっくりしました最初は。
 突然、経験も無い機械加工の世界に飛び込むんだもの。
 どうなることかと思ったけれど、あれから3年もたってしまったら、
 今ではすっかり、昔から一筋にこの仕事に打ち込んできたみたいなところが 出てきたもの、
 職業の選択って、奥が深いわね・・・」

 「よく言うよ。
 自分だって自動車販売店のOLさんから、
 いつのまにか、保母さんに転身してしまったくせに。
 同じことだろう。」

 「あら、私はもともと第一希望が保母さんです。
 たまたま挫折をした結果が、自動車販売店でのOLです。
 それにしても、順平が鉄鋼関係の仕事につくなんて、私は一度も
 考えてもみなかったわ。
 分かんないわね、人の前途なんて。」

 「まあね、
 それよりそっちの本も気になるね。
 ちひろの日記だって?」