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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 そのとき、不意にドアがノックされた。
 思わず暖野は時計を引き出しにしまう。だが、それまでだった。
 ノックなどほとんど意味を成さないうちに、ドアが押し開けられたからだ。
「姉貴」
 最初のノックから一秒も経たぬ間に、弟が半身を乗り入れてくる。「メシ」
 弟の修司は、必要最小限のことを口にした。
「ちょっと」
 暖野は苛立たしげに言った。「いきなり開けないでよ」
「ちゃんとノックしたぜ」
「かたちだけね」
「それ、プレゼントか?」
 修司は机の上のものを見て言った。
 そこには拡げられた包装紙と箱が置かれたままだった。
「ま……まあね」
「男かよ」
 暖野はどう返事していいものやら分からず、黙って修司を見返した。素直に自分で買ったのだと言えばいいようなものだが、もしそう言ったとしたなら修司は何を買ったのかと追求するに決まっていた。そして最後はいつもの決まり文句、「趣味悪いぜ、まったく」で終わるのである。
「物好きもいたもんだな」
 暖野の沈黙を肯定と取ったのか、修司は言った。
「う……うるさいわね。もう! 放っといてよ!」
「どうでもいいけどさ、ちょっと趣味が悪いんじゃないか、そいつは……?」
「出てけ! このっ!」
 暖野はクッションを投げつけた。だが修司が素早くドアを閉めたため、それはドアに叩きつけられて絨毯の上に転がっただけだった。
 閉じたドアに向かって暖野は思いきり舌を出した。
 修司は中学一年生。まさに生意気盛りだ。
 暖野は引き出しから時計を出し、慌てて片付けたときに傷でもつけていないか確認してから、もう一度丁寧にしまい直した。
 それから机の上を整理し、空になった箱をクローゼットに入れると、一息ついて夕食のために部屋を出た。

作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏