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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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プロローグ



「――だって。ねえ、暖野(のんの)もそう思うでしょ?」
 宏美が同意を求める口調で言った。
 しかし暖野がいっこうに反応を示さないため、その声はじきに苛立ったものになる。
「ちょっと、暖野!」
「え? 何?」
 暖野は我に返り、慌てて聞き返す。
「うそ。全然聞いてなかったの?」
「うん……。ごめん」
「ひどいじゃない」
 宏美がふくれる。
「ひどいって、何が?」
 わざとではないにしても、暖野の声は自然ととぼけたようなものになる。本当に、何がひどいのかさえわかってはいないのだ。
「だって、私の話、全然聞いてなかったんだからさ」
「ごめん……」
 何が何だかわからないにせよ、話を聞いていなかったことは事実なので、暖野は再び謝った。
「ねえ、どうしたのよ。最近の暖野、何だか変よ。悩み事でもあるの? 私でよかったら相談に乗るけど」
「べつに、悩んでるわけじゃないわ」
 暖野は素っ気なく言った。
「そう? ほんとに?」
 宏美が暖野の顔を覗き込む。
 宏美の顔は、暖野の言葉を端(はな)から信じていないのを如実に物語っていた。
 暖野はその眼差しを真正面から受け止められずに、目を逸らした。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏