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太陽のはなびら

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【限られた時間の幸せ】



シンとヒューイがロコロ村に来たのは、去年の春だった。
生き倒れになりかけていたシンとヒューイを、ピリカが見つけ、村に連れてかえったのだ。
普通の村では、よそ者を村に入れることをあまり良く思わない。
疫病を運んできたり、厄介事を持ち込んできたりすることが多いというのがその理由だ。
今までシンは、様々なところを転々としていた。無視されることは日常茶飯事。
門前払いを受けたりした事も少なくない。
酷いところでは、威嚇なしでいきなり攻撃された事もあった。

しかし、ロコロ村は違った。

村人達は、シンが空腹なのを知ると、家から食べ物を持ってきて食べさせた。
ヒューイには、皆で彼が好みそうなものを考え、一通り揃えて与えた。
宿を探しているとシンが言うと、ピリカの父である村長が自分の家に来るよう申し出た。
流石にシンは、そこまでしてもらっては申し訳ないと断ったが、
村長はそのかわりとして、シンに一件の小屋を分け与えた。
この村の人々は、他の村の人々と違い、シンを拒絶しなかった。
村人たちの好意が、そして善意が、シンの心に、久しぶりのぬくもりを与えた。
そして、シンはこの人たちに、何かお返しをしたいと思うようになった。
小さな子どもに武道を教えたり、農作業を手伝ったり、自分のできることは何でもしてきた。
それが、少しでも恩返しになればと切に思いながら。
この一年間。シンは本当に幸せだった。
それがずっと続けばとも思った。
しかし、シンはもうすぐここを離れなければいけない。
村人たちが大好きだからこそ。シンは村を去らなければいけない理由があった。
その理由は。その忌まわしい理由は。
「……うしたの? シン?」
ピリカが心配そうな顔をして、シンの顔を覗き込んでいた。
「どうしたの? ぼうっとして」
「あ、いや、何でもないです」
シンはあわてて取り繕った。
「なにか悩みでもあるの? お姉さんが相談に乗ってあげようか?」
「いや、その、ただちょっと、今晩の献立を考えていて」
苦しい言い訳だと自分でも思ったが、ピリカはそれ以上追及しなかった。
逆にそれが、シンにとって、とてもありがたかった。

作品名:太陽のはなびら 作家名:伊織千景