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太陽のはなびら

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【第四章:偽りは涙の味】



 出ていく準備は、驚くほどすぐに出来た。
このような事には慣れていたから、部屋には最小限のものしか置いていなかった。
ロコロ村から最寄りの街には、一日歩けばたどり着くが、深い森の中を通らなければいけない。
着替えと食料などの必要なものをいくつかバッグに入れ、地図とコンパスをサイドポケットに入れる。
そして、腰のベルトに、父親から受け継いだひと振りの剣を差し込む。

「ここも、ダメでしたか」

シンの背後から、渋みのかかった、男性の声が聞こえる。

「久しぶりに声を聞いたよ。ヒューイ。ゴメンな。響覚を使ってしまったから、もうここを離れなきゃ」

声の主であるそのタカは、頭をこくりと下げて、続ける。

「いえ、坊ちゃんが謝る事はないです。あなたがいる場所が、私の居場所ですから」

「ありがとう」

シンは、ヒューイの喉を指で撫でて、テーブルに置かれている、
今日の朝届いた本「響覚という存在についての研究と実態」に目を向けた。
ページを開き、その定義のページに目を通す。

―響覚(きょうかく)―
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの、五感のどれにも属さない感覚機能の一つ。
響覚の力を発現、自覚している人間は、響覚者と呼ばれる。
響覚者は他者と自らの心を共振させることにより、他者の思考を読み取ることができる。
また人間だけでなく、動物の思考も読み取る響覚者の存在も確認されている。
響覚を使いつつ、正気を保てる人間は非常にまれで、
多くが響覚を自覚して数カ月から一年で精神崩壊を起こす。
人間の複雑な思考が脳内に流れ込む事のストレスと、
他者の思考と発言のずれから人間不信に陥るためであると推測される。
ごく稀に、正気を保ちつつ、響覚を自分の意思でコントロールする事が出来る
強靭な精神を持つ響覚者が存在するが、一年以上特定の他人と行動を共にすると、
響覚をコントロールする事が出来なくなり、無差別に相手の思考を読み取ってしまう。
そのため、響覚者は一人で行動する事が多い。
また、犯罪に利用する者や、人心を惑わす者が一部いるため、
社会からは響覚を持っているというだけで偏見の目で見られてしまうのが現状。

作品名:太陽のはなびら 作家名:伊織千景