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超短編小説  108物語集(継続中)

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 オンネトー湖は雌阿寒岳(めあかんだけ)の麓、その大自然の中に神秘に存在する。それはまるで森羅万象を凝集させたかのように神がかっている。
 静かだ。
 花木はその湖畔に佇み、乳白色の霧に包まれた湖を眺めている。
 それにしてもこんな所が故郷って、これはとわ美の冗談かと思いながら、なぜか自分自身も懐かしい気分にもなっている。

 そしてポケットから、赤い鉢巻き石を取り出した。これはとわ美がデスクで文鎮代わりに使っていたものだ。それを湖に向かって放り投げた。静かな湖面に波紋が広がる。
 ただそれだけで、他に何も起こらなかった。もちろんとわ美にも会えず、花木は町へと戻って行った。

 それから一週間経った頃だった。とわ美がふらりと現れたのだ。花木は腹が立ったが、反面なぜか嬉しい。
「なあ、とわ美さん、一体どうしたんだよ」
 早速面談し問うてみた。しかし、狐につままれたような答えが返ってくる。
「花木課長、わざわざ湖まで来て頂いてありがとうございました。またこの縁結びの石を私に放ってもらって、ホント感激しましたわ」
 花木は耳を疑った。そして恐る恐る訊く。
「オンネトー湖がやっぱり……、出生地なの?」
 それにとわ美は「そうですよ」と穏やかに返し、静かに語り続ける。

「変若水(おちみず)は若返ることができる水。それがオンネトー湖の底に湧いているの。私、三年に一度はそれを飲まないとね、歳を取るのですよ」
「へえ、それが姿を眩ました理由だったんだね」
 花木はなんとなくわかるような気がする。しかし、とわ美は今さら何よという表情で睨み付けてくる。

「忠蔵さん、思い出してください。五百年前、私たちは夫婦だったのよ。永久の愛を誓い、あの湖畔で暮らしてたの。だけどあなたは変若水を飲まず、お酒ばっかり飲んで、死んじゃったわ。だけど私はずっとそれを飲んで、年齢を保ってきたの。こうして、あなたの生まれ変わりを待っていたのよ。さあ、もう一度一緒に、北の暮らしに戻りましょう」