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超短編小説  108物語集(継続中)

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 そんなカズラに、いきなり手を引っ張られ、町外れの高台へと上ってきた。眼下には廃墟と化した遊園地が望める。そして昼間燦々と降り注いでいた陽の光は入射角を小さくし、かって絶叫マシンと名を轟かせたジェットコースターを紅く染め始めている。

 そんな風景の中に、ビシッと濃紺のビジネスウェアを身に纏ったエリート社員、カズラのシルエットが浮き上がる。一樹は一幅の絵になるなあと思った。

 だが間近へと目を戻すと、葛(くず)の蔓が展望台に絡まり、緑の葉で覆い尽くされている。そこには朽ち果てた、まさに廃屋があった。

 それにしても、なぜ、こんな所に?
 一樹はカズラの真意が推し量れず、ただ無言で茜色に染まり行く山の端をしばらく眺めていた。その静寂を破り、別人のような低い声でカズラが口にした。
「一樹君、もういいでしょ、お別れしましょ」

 若い男女が沈み行く夕日を眺めながら、別れましょ、とは?
 一樹が振り返ると、カズラの耳たぶがぽっと赤い。上気してる証拠だ。
 それにしても、これって男がふられるシーンなのか?

 確かにカズラへの恋慕の情はある。だが一樹にとって、それは初恋のように淡いもの。そのためか、このような場面では女心を気遣い、「僕、カズラのこと好きだけど、別にいいんだよ」と返した。
 これにカズラは「一樹君て、純情なんだ」とぷぷぷと吹き出し、「私たちは近親だよ、恋愛なんてできないわ」とお茶目な表情になる。

 しかし、一樹には理解できない、僕たちが血縁だとは。