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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それにしても、この一見平和そうな町、結構事件が起こるのですよね。それらを快刀乱麻にとまでは行きませんが、心を込めて解決させてもらってます。
 そうそう、この間珍妙な事件がありました。ちょっと紹介させてもらいます。

 あれは昼食を済ませ、オフィスでくつろいでいる時のことでした。年の頃は四〇歳前後、桜子という奥さまがひょっこり見えましてね、依頼されたのです。
「私、大事な壺をなくしたの、探してくださらない」
 僕はレスポンス良く「どんな壺ですか?」と訊くと、「これくらいかな」と手の平を少し広げられました。そこから推し量って、即座に「骨壺ですか?」と聞き返してしまったのです。

 奥さまは明らかにムッとされまして、「アータ、やっぱり使いものにならないタン三電池ね。なくしたのは笑壺(えつぼ)よ、すなわち……笑いの壺よ」と強調されました。
 紛失したものが笑いの壺とはまったく珍奇、ですよね。されど僕はプロの探偵です。「はい、探しましょう」と二つ返事で引き受けました。

 だけど確約してしまったものの、桜子奥さまがなくされた笑いの壺は見つかりません。それでちょっと焦り始めたのですが、今度は美貌のご婦人、美歌さまが訪ねて来られました。そして色っぽく頭を下げられました。
「ね、タン三のお兄さん、泥棒が入ったの。犯人はね、逃げてしまったわ。ねっ、捕まえてちょうだいね、お仕置きしたいから……、ね」と。
 なんと「ね」の多いお話しかと。だけど僕はこの妖艶な女性、美歌さまを知ってました。

 公園の外れの大きな家で、一人暮らしをしている後家さんです。
 そのせいかここは特別に大袈裟に、「良かったあ、強盗でなくって。それで、盗られた大事なものは何ですか?」と聞き返しました。するとどうでしょうか、ご婦人はちょっと恥ずかしげに囁かれたのです。
「私の恋心よ」
 これにはぐうの音も出ませんでした。そして気が静まるのを待って、もう一度確認しました。

「ということは……、恋泥棒ですか?」
 これに美歌さまはなぜか都言葉で、涼やかに「そうなんえ」と。