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君に秘法をおしえよう

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暁斗・不幸のデパート



 なんでオレの人生、上手くいかないことばっかなんだ?

 両親ともいない、なんてまず究極の不幸だ。もちろん貧乏だし。更に訳わかんない病気にもなっちまって、剣道も出来ない。

そのうえ。

留年だよ。

出席日数、足りなくなっていたそうだ。担任が色々骨おってくれたんだけど、オレ、音信不通だったし、ホストしていた噂もあったから、学校側は容赦しなかった。退学にならないだけマシって感じ。

あーあ。

どんよりとした冬の空をベッドから見上げていた。

微熱が時々出るんで、こうやって寝込む日が多いのもオレを憂鬱にさせていた。肝炎は今んとこ完治するのがむずかしい病気だ。母も肝臓ガンで死んでいるし、肝臓弱い遺伝子もらったか? なんか嫌な感じ。これじゃ、出席日数足りてても、どっちみち学校行けない体だな。


『剣道形、やりたいなぁ』

正宗との形は、あまりに強烈だった。息を合わせるストレスが全くなかった上に、発展していく気感が気持ちよくって、忘れられなくなってしまった。

困る……よ。あんな、お気楽サド眼鏡にとらわれるのは。

しかし、いったい正宗は何者なんだろう。色んなこと知っているみたいだけど、陰陽師の跡取りって、みんなああなのかね。



「ああ、目はつむってリラックスしていてね」
幸子《さちこ》さんの声に我に返る。

 今日はレイキの日だった。何でも、気功の一種であるレイキは手当てによってエネルギーを流して、体の調子を整えるという。 高原家と懇意にしている幸子さんに、正宗が頼んでくれたおかげで、週に二日、午後に1時間ほどやってくれるのだ。


 病院で正宗が額に手をおいてサラサラと流してくれたのは、これだった。

 確かに……細かい粒子が体の中でサラサラと反応していく。マイナスだった感覚をプラスにひっくりかえすような、その繊細なエネルギーにいつも眠くなってしまう。けど、幸子さんと正宗の気は違う感じだ。
 
「はい。今日はここで終わりね」
「あ…… はい。ありがとうございました」

 オレの母よりも年上らしい幸子さんは、やさしく微笑むと荷物をまとめだした。

「まぁくんは今日は遅いの?」
 幸子さんは正宗のことを、まぁくんと呼ぶ。

「近頃、予備校が最後の追い込みらしいです」
「大変ねえ…… けど突然、医学部に進路変更したなんて、びっくりしたわ」

「え? 前から医学部狙いじゃなかったんですか?」

「ううん。確か、経済学部志望じゃなかったかしら? なんで変えたんだろうね。ま、君たちの年代は、膨大な選択肢があるから、途中変更もぜんぜんOKだね。いいなぁ……」


「あのっ」
「ん?」
 幸子さんに、正宗のことを聞いてみたくなった。

「正宗さん……って、神社の後とか継がなくていいでしょうか?」
「ああ」
 何かを感じたようで幸子さんは、ニヤッと笑った。

「陰陽師のこと?」
 オレは肯いた。

「大丈夫よ。まぁくんは、もうずっと陰陽師としての修行はしてきてるの。先代の宮司、えっと、あなたのお祖父さまにも当る人に、色々教えられてね。……まぁくんはお父さまより筋がよかったんで、ずいぶんとツライ修行もさせられていたわ。私も、そのお祖父さまの一門だったの」

「え、そうなんですか」

「といっても、私は、会合に出るくらいだったけど。ここの教えは、ちょっと独特でね……って、君どこまで知ってる?」

「ぜんぜん知りません」
「え〜 則宗《のりむね》さん、まだ、暁斗くんに何も教えてなかったのか」

 則宗、というのは、伯父のことである。


「じゃ、私からは話せないわ。部外者だし。きっと、タイミングをみて話してもらえると思うよ」
「そうかなぁ……」

「そうでしょ。だって、暁斗くんだって能力引き継いでいるでしょ?」
「何の?」
「陰陽師の」
「ええ? まさかぁ」

 幸子さんは突拍子もないことを言う。それも、当然でしょ、って感じで。

「自覚してないの? ま、仕方ないけどね。じゃ、今日はこれで。またねえ〜」
 言うだけ言って幸子さんは、時間も押していたので、さっさと帰ってしまった。



 困った。


 オレ陰陽師にさせられるのか? いや、陰陽師の前に病気だよ、治るのか?

 あ。

 まさか、まさか……医学部ってそれで、じゃないよね。オレが訳分かんない病気してっ
から正宗が医学部に変更した、なんて…… そんなことありえないよね。

 ははは……

 自意識過剰だよオレ。だいたい、正宗がそんな純情な普通高校生みたいな理由で、医者になんてなるわけないじゃん。

作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ