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君に秘法をおしえよう

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暁斗・回転停止



 結局、あの日は近所のファミレスでお茶だけ飲んで帰ってきた。

 だって、オバさんは晩御飯用意して待っていたし、ヘルメットを買うたって、店に行くまでに捕まったら意味ないだろ? 正宗はブーブー文句を言ってたけどさ。

 新庄さんは、あきらめたのか、オレたちが帰った頃にはもういなかった。あれだけやりゃ、そりゃ、待ってる気もなくなるよ。ちょっと可哀相……だよね。



 少しだけ元気が出てきたんで、オレは素振りと形をやるようになっていた。正宗が学校に行ってすぐの時間だったら、まだ道場?は空いていたから、思いっきり好きに出来た。

 借りた導引法の本の内容を思い出しつつ、形に呼吸法を合わせてみる。今までだったら力の入っていた動きにゆるみが出て、息継ぎも無理なく出来るようになってきた。

『ああ、そっか』

 エネルギーの動きだす感覚も自覚できて、全く新しい技?が産まれそうな気がしてきた。それが楽しくて、わくわくして、夢中になった。


「好きなことをするんだ」

 正宗が言った、あの日の会話が思い出された。


 ファミレスのシートに座ったと同時にオレはすぐに、例のうずまきを止める方法を尋ねたんだ。だって正宗は毎日忙しそうで、なかなか話をする時間がなかったから。


「正宗の部屋にある本で、うずまきのことが書いてあるの見つけられないよ」
「うん、ないよ」

 正宗はしれっと言うと、アゴに手をあてて肘をついた。そして、ちょっと斜めからオレを見た。

「あれってあくまで俺の研究から導きだした説だもん。うそかもしれない」
「えー! なんだよ、それ!」

「だから、信用の問題なんだよ。その人の言うことを、取り入れるか、取り入れないかは。でも、暁斗は俺のこと信用してるだろ?」
「うん」

 て、普通にうなずいてしまったよ。何、普通に返事しているかな、オレ。一番ニガテな『信用』を持ち出してこられたんだぞ。

それに、普通「俺のこと信用しているだろ?」なんて言うやついないし(詐欺師と浮気している人間ははぶく)。どんだけ自信過剰なんだよ? 相手に向かって「信じているからね」と言うことはあるだろうけど。


 けど……悔しいことに、オレは正宗のことは、やっぱ信用しているみたいだ…… 例え、間違っていても、騙されたなんて思わないし。きっと「あ、そこ違ってた、ごめんね」とかヘラヘラするだけだろうなぁ。それでもいいか、って思える。

なんでだろう? うーん、人間の深みが違う気がするからかなぁ……自信過剰を実現してしまいそうな意志力があるからか。


「じゃ、仕方ないじゃん。俺の説を取り入れてみるしか」

 むっ。一瞬、ムカついたけど、本当だから仕方ない。正宗は本当に研究熱心みたいだし。部屋にある膨大な本や、何か分からない陰陽師関係の資料やグッズを見ただけで、相当に勉強しているな、ってことは分かる。


 オレは不機嫌な表情のままコーヒーを一口飲むと、少し口をとがらせて言った。
「じゃ、どうやってうずまきを止めるん・ですか?」

 最後の「ですか?」は、嫌味たらしく強調した。


「好きなことをするんだ」
「好きなこと?」

「うん。心と体が喜ぶことをしたら、うずまきは恐らく止まるだろうし、逆回転させることも可能なハズなんだ。ただ……心から好きなことが分かっている人間は、ものすごく少ない、し、例え分かったとしても色々と理由をつけてしないんだ」

「なんで?」

「だって、そうだろ。例えば漫画が描きたい、って思ったとしても、俺には才能がない、年がいき過ぎている、プロで食べていけるのは一握りだ、とかとか、ものすごいいっぱい、いい訳が出てくるわけ。

それって一見まともな意見のように感じるかもしれないけど、よく考えたらヘンなんだ。だって漫画が描きたいってのと、漫画家になりたいってのは別じゃん。現代人はすぐに仕事に結び付けるクセがあるんだ。

実際、仕事を目的にしたとしたってプロになれない根拠はないんだよ。一握りって言ってもちゃんと漫画家はいるんだから」


「でも、それってすごい確率低くない? かなり才能がないと無理だよ」

「才能は関係ないんだって。好きなことをやる、って話しだから。今はうずまきの話。本人の幸福度の話。
漫画描きたかったら、誰に見られなくてもいいから描くべきなんだよ。自分がそれをやってものすごく楽しくてワクワクするんだったら」

「誰にも認められなくても? なんか虚しくない?」

「認めてくれる人は、必ずいる。すごく少なくてもね。今ならネットにも載せられるし、同人誌だって作れるんだから、やればいいんだよ。そのうちはずみがついてくるんだ。とにかく、一番大事なのは、本人が情熱を持って続けられるかどうか、なんだ。自分なんだ、中心に考えるのは。結果までコントロールしようなんて考えるから出来ないんだ。

考えてみて、もし、自分が死ぬ間際になってどっちが後悔するか。自分の外を中心に考えて?無理だから?とあきらめたのと、?やりたいことやった?のと」


「そりゃ、やりたいことやったほうがいいよ。けど、ほんと、自分が何を好きか、がよく分からないけど」

「今は詰め込み教育で、人間の想像力を奪っているから、何がやりたいか分からない人間がものすごく多い。けど、本当は今までにやってきたことにヒントは隠されてるんだ。

 俺はさ、この世の不思議について興味あるんだけど、じゃあ、それをどうやって表現してやっていくかって、なかなか想像できにくいと思わない?」

「思う。哲学科の教授? ……宗教者、占い師……くらいしか思い当たらない」

 生きてきた短い時間の中で、思い浮かぶ職業をあげた。実際には、正宗は陰陽師として働いているから、この枠に入らないんだ。そう考えると、オレらは、とんでもなく狭い想像力の中で物事を判断しているのかもしれない。



「仕事にしなきゃ、て思うからだろうね。好きと仕事にする、は、本当は別なんだ。もちろん好きを仕事に出来たら一番いいけど、それは結果であって、目的にしてはいけない」

「成功本とかには、目的をしっかり明確しなきゃ、どっちに進んでいいか分からないからだめだって書いてあるけど?」

「成功本は、前段階が抜けている。一億円を稼ぐとか、ビジネスを成功させるとか、実際的なお金もうけの話が主体となっていて、本人の個性がないがしろにされる傾向があるんだ。

成功本では大抵は成功できない。なぜなら、お金儲け自体に、ワクワクする体質でない人が大半だから。別にそれは個性だから悪いわけでない。お金が儲けられる人は、もともとビジネスするのが、ワクワクする体質だった人だと思う」


「お金を儲けるのは誰だって好きだと思うけど。あ、違うか。死ぬ間際に後悔しないことが大事だったもんね?」

「そう。ビジネスを自分の好きなことの表現手段として使うんだったら話しは別になるんだ。俺だったら、この世の不思議に対する、ちょっとしたコツを体系化して、それを教えていく、とか、霊験グッズを作って販売したりとか、出来るしね。
作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ