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エイユウの話 ~夏~

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 更衣室を出ると、多くの生徒がシャウダーと呼ばれる小型の簡易無線機を用いて、友人と連絡を取り合っていた。午前中水泳、午後に町まで降りて娯楽を、という生徒が大半なのだ。まだまだ授業の残る明(みん)の最高術師は、眉間にしわを寄せて僻んだ。
「全寮制なんだから、寮まで行けばいいじゃねぇか」
「プールと寮なら、プールのほうがロビーも広いし、西門にも近いからね」
 ちなみに西門とは、遊園地や大型ショッピングモールのある町に通じる門である。四つの町の境目にこの学校があるため、出入り口も東西南北に存在するというわけだ。ちなみにこの学校はキサカの言うとおり全寮制である。
 それから五分が経ったが、彼女達は姿を見せない。待ち合わせをしていた人たちが、どんどんそろって出かけていくのを、キサカは不満気に見ていた。適当なところに立っていた彼は、空いたベンチの脇にある窓辺に寄りかかる。
「どうして女共の着替えはこんなに時間がかかるのかね?」
「二人とも髪の毛長いし、乾かすのに時間がかかるんだよ。それに、他の子が長かったらあの二人が遅くなっちゃうのはしょうがないよ」
 そう言いながら隣のベンチに腰をかけたキースは、鞄の中から電子辞書を取り出す。小型の電子辞書というよりは、タッチボードのようなものだ。
「あれ?お前の電子辞書、ガルガなの?」
 この国では、四から五種類の電子辞書が存在するが、学生である彼らが持つのは比較的安価でも、それなりの性能を持つロディックと呼ばれるものが多い。が、キースが持っているのは、最安値で持ち歩くには大きすぎる、ガルガと呼ばれるタイプのものだった。
 また、入力の手段も二種は異なる。電子辞書には声入力できるものから、文字をスキャンして入力するものなど様々ある。アクリル製の額を思わせるロディックは文字をタッチパネルで入力するが、キースの持つガルガは、専用のペンで書き込まなければ入力はおろか検索すら出来ないのだ。
 皆がガルガを嫌う理由は、性能の不備とそこにある。
 キースが電源を入れると、青色の画面が映った。手早く操作するキースを、キサカは少し意外な気持ちで見る。キースは誰かと二人でいるときに、自分だけ何かをするような性格には思っていなかったのだ。
「キサカはガルガを使ったことある?」
 気を遣っているのか、キースはキサカにそう尋ねてきた。大して関心もなく、一直線上でシャウダーを使って待ち合わせをしている男子生徒を睨む。そのまま視線も変えずに答えた。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷