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再び桜花笑う季(とき)

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3.親近感



私は、三輪さくらのその後の様子が気になり、その次のリハビリの帰りに私もかつてお世話になっていた、彼女の職場である病棟を訪ねた。
「お久しぶりです。」
私は彼女の同僚の曽我部由美に声をかけた。私服を着て出て来たので、勤務明けだろうと思ったからだ。
「松野さん、こんにちは。リハビリ頑張ってる?」
「ええ、まぁ…」
私はそう言うと、車椅子に乗ったままの自分の姿をざっと眺めた。
「ま、根気よく頑張って。で、今日は何?」
「三輪さん元気になったかなと思って…前回の通院の時、ちらっとストレッチャーに乗ってるとこ見てしまったもんですから。」
私がそう言うと、それまでにこにこしていた由美の顔が曇った。実際、私は彼女がICUに運ばれたことも、かなり危ない状態であったことも知っていたのだが、通りすがりに垣間見た体を装った。
「え、ええ…」
「そうですか、それは良かった。彼女、私の退院の時大泣きしてたでしょ?だから、気になってたんですよ。」
(助かったのだな、良かった。)私はそれを聞いてホッとした。私はあの時、向こう岸に行こうとしている彼女をうらやましいと思ったことが、内心後ろめたくもあったのだ。安心している風な私の返事を聞いて、由美は続けた。
「そっか三輪、松野さんの退院の時、ぼろ泣きしたもんね…松野さん、ちょっと時間良い?三輪のこと聞きたいんでしょ。」
「別にどうしてもってことではないですけど、、暇ならたくさんありますから。」
私は由美の誘いにそう答えて、1階の総合受付の待合に陣取った。

「でもこんなこと、言っても良いのかな。三輪ね、一応意識は取り戻したんだけどね、まだ予断は許せない状態なの。」
そこで、由美はため息を交えながら三輪さくらの近況を伝えた。
「彼女そんなに悪いんですか。」
「うん…1回、心肺も停止したしね。何よりもう、体中ガタガタで衰弱しきってる。」
「いったい何が原因なんですか?」
一体何がどうすれば、あの20代前半だと思しき彼女がそんな状態になるのかと私は思った。
「ダイエット…」
それに対する由美の答えは意外だった。
「ダイエット?」
そして、その原因がダイエットだと聞いて、私の顔はゆがんだかもしれない。確かに彼女はこの3〜4カ月でみるみる内にスリムになったが、それがために命を失うのだとしたら、それこそ本末転倒じゃないか。
「もちろん、それだけじゃないのよ。でも、それがベースになってる。」
すると、私の表情を見てとって由美はそう付け加えた。

「三輪にさ、去年恋人ができたのよ。というか、ずっと友達だった子が恋人に昇格したって方が正しいかな。そいでね、彼のためにダイエット始めたの。でもあの娘って、根が真面目でしょ?だから、やりだすと一直線。あっという間に痩せちゃったのよね。」
続く由美の話に、私は頷いた。あの時否定しなかったのは、やはり実際にそういう状態であったからなのだなと思った。
「でもね、スリムになった三輪を、その彼、振っちゃったのよ。突然別れようって言われたらしい。」
「は?」
私は思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。そいつのためにダイエットしたのに、痩せた途端振ったのかその男は…所謂「デブ専」ってやつなのか?だとしたら、かわいそうな娘だ。ダイエットなんかしたおかげで、振られるとは本人も思ってもいなかっただろう。泣いていたのは、そいつに振られたばかりだったからなのだろう。私は鼻で笑った。しかし、由美の次の言葉に私は息をのんだ。
「だけど、ホントは彼…末期がんだったの。看護師の三輪に自分の死を間近で見せるのは酷だって、自分から離れたの。あの娘がそれを知ったのは、彼が倒れてここに救急で搬送されて来たから。」
「…」
「彼、三輪に『もう二度と会わない。』って言って、翌日には元の病院に戻っちゃって。そのすぐ後だったのよ、松野さんの退院。たぶん、松野さんに彼を重ねてたんだと思う。」
私の前で泣いたのはそういう事情だったのかと思って、私は由美の言葉に頷いた。
「でね、三輪が倒れたのは…その日に彼が亡くなったのよ。いっぺんに張りつめたものが切れちゃって心も体もいっぺんに崩れたんだと思うの。ダイエットで体力が落ちてたから尚更。」
それに、彼と共に逝きたいという気持ちも生じていただろうし。私は心の中で由美にそう返した。私のように状況が自分で解からないまま命をつながれたのとは違って、はっきりと彼の地に行こうとしている恋人の姿が見えているのなら尚更それを熱望し、生は彼女の体から離れていこうとしたのだろう。それでも彼女は命長らえた。命をつなごうという周囲の努力に負けたのだ。

同じだ…と思った。私は三輪さくらという女性に親近感を感じた。