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D.o.A. ep.34~43

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「……ァァガア!!」
ひどく耳障りな、甲高い悲鳴が、はたと意識をひきもどした。
同時に体が落下して、無様に地面に転がる。
「っげ、ほ、げほッ」
同時に何か大きなかたまりが、となりにぼとりと落ちてきた。
ぎょっとして見上げると、オークが、見事なまでの切り口で手首から先を失っていた。
「だ、誰だ…」
こんな真似ができるのは白甲冑か。それとも…

眼前、白の軌跡が縦横無尽に駆けめぐる。
まさに光のような速度で滑空する鳥は、その身が刃そのものだった。
悪鬼どもは、その光に自分が殺された、という自覚を得るいとまもない。
そして光の軌跡は、主のもとへと戻っていった。
「…レーヤ…」
巨木から着地した小さな少年の名を呼んだ直後、オークたちは大量の体液を噴出して死にいたるのだった。
レーヤは相変わらず、表情筋の凍りついたような顔だったが、ライルの姿を認めると、少しだけ安堵したようにタタッと駆け寄ってきた。
「平気」
真っ赤に汚れているライルの体を見て、レーヤはわずかに眉を寄せた。
「ああ。見た目ほどひどくない。返り血も混じってるし。…それより、無事でよかった」
ライルはせまい肩にそっと触れて、大した傷もない様子を確認すると、ほっと息を吐く。
「一緒に戦おうって言ったのに、そばにいてやれなくてごめん。助けてくれてありがとな」
「…アル、いるから」
「うん、そうだった。アルはすごいな。さすが、レーヤの友達だ」
褒められて、レーヤはうずうずと唇を震わせている。

「いいかレーヤ。俺は、ここに入ってきた奴らの親玉に会った。白い鎧と兜をつけてる。やばいくらい強くて、追い返してやりたいけど、どうも無理だ。
狙われてるのは俺だけど、きっとお前も危ない。いや、みんな危ないと思う。
まず、一緒にエメラルダさまのところに戻ろう。そんで、エメラルダさまの力でいったんみんなでここから外に出よう」
「外…?」
丸い瞳を真摯に見つめ返して、ライルはうなずく。
「レーヤはここしか知らないけど、俺たちがやって来たのは外なんだ。そこはここよりずっと明るくて、いろんな生き物がいる。
いったん逃げるだけだけど、そこが気に入ったらエメラルダさまと一緒にそこへ住んでもいいし…まあ、そんな後の事はその時考えたらいい。
とにかくエメラルダさまとリノン、ティルと合流しよう」
立ち上がって、目をさらに大きく見開いているレーヤの手をとる。

「…知ってる。この外で、広い世界、広がってるのは」

「え…?」
こぼされたつぶやきに、振り返る。レーヤはうつむいて、動かずにいた。
「外、ある事、知ってる。出たい、そう思ったことも、ある」
驚いた。
レーヤは何も知らず、何も望んだことさえない、まるで心が死んでいるような子供だと考えていたのだ。
「でも、そう言うと、エメラルダさま悲しい顔する。…だから、べつにいいって思った。
エメラルダさま、悲しいなら、僕、なにも知らないままでいい、知りたくない」
そうではなかった。
この子供は、みずから心を殺していただけの、普通の少年だった。
知らない世界があることを知っていて、どんな場所なのか想い描き、見てみたいという願いを大事な人のために封じこめているだけだった。
そんな純真な願望を、なぜエメラルダは悲しむのだろう。
レーヤが外に行けば、レーヤを失うと考えているからだろうか。
あの賢者が何を胸に秘めていても。
それでも。
「外にはいろいろあるけど…大抵のことからなら、守る。だから行こう、レーヤ」
つないだ手をぎゅっと握る。その強さに、レーヤもようやく面を上げた。
「僕、も…エメラルダさま、守りたい」
「守れるよ。お前は強い戦士だ。魔物がうようよしてる森の中でこうして生きてる。外にだって、こんな危険はなかなか無い」
レーヤからもぎゅっと握られる。それが嬉しくて、口元がほころんだ。

―――茂みで、何かがうごめいた。
「ッ?!」
直後には眼前に、巨大な斧をもったオークが迫っていた。
事が終わったと油断するのを見計らっていたように、ライルとレーヤに襲いかかったのだ。
「アール、」
白い鳥の名を呼ぶべくレーヤが口を開く。しかし間に合わない。オークは咆哮をあげながら大斧を振り上げる。
「レーヤ…!」

せめてその小さな体を庇おうとするや否や、醜い容貌の眉間を、凄まじい勢いで何かがつらぬく。
手から離された大斧が、重たげに地に突き立った。そうしてぐらりと、巨体が傾き、倒れた。
のぞきこめば、矢が、急所を正確に射抜いていた。
放たれたであろう方角を見やると、見知った青年が残心を行っている。
「……」
鈍い銀のするどい双眸の持ち主が、黙したまま佇んでいる。
「…ティル」
力のない、ささやきのような声音が投げられた。
歩いてくるのを認め、ライルは無意識に緊張した。
こんな状況にもかかわらず、レンネルバルトの一件以来、彼とどう接すればいいのかがわからない。
ありがとう、助かったといえばいいのだろうか。
ぐるぐる悩んでいると、すぐそばにティルは立っていた。

「…あの」
「……なんだその風体は」
あきれたような言葉に、思わずむっとする。
「べ、べつに、なりたくてなったわけじゃ…」
直視できない。レーヤにさんざん年上ぶっておいて、我ながら情けない。
苦虫を噛み潰したような表情で、レーヤとつないでいる手にも力が入ってしまう。
そのレーヤが、きょろきょろとあたりを確認して、ティルを仰いだ。
「エメラルダさま…一緒じゃ、ないの…」
不安そうに語尾が小さくなっている。一緒でないのは、一目瞭然だ。
すなわち、現在、エメラルダと共にいるのは、リノンだけであるということになる。
ライルは咄嗟に、ティルの胸倉をつかんでいた。
「…!は、早く、早く合流しよう!白甲冑に会ったら、殺される…!」
「白甲冑?」
柳眉をしかめたティルが、おうむ返しに問う。実際に出会ったのはライルだけであった。
しかし、その恐ろしさを伝えている余裕はなかった。
白甲冑は女子供だからと手加減するような、生易しい輩ではない。絶対に。
「…とにかく、合流して、みんなでここから脱出すんだよッ!」
揺すりながら訴えかけると、彼はわかったから放せ、と、ライルの手を振り払う。
「敵はずいぶん減ったと思う。二人の気配を探るから、静かにしていてくれ」
「…たのむ」
頭を下げ、二人の無事を祈るように目蓋をきつくしぼる。
すると不意に、背中に氷を入れられたように、ぞくりと寒気に襲われた。

「おたくら、勝手に今後の予定立ててもらっちゃあ困るぜ。テメェらここで全員死ぬんだからよ」


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har