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D.o.A. ep.34~43

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Ep.42 別れ




「…は、はぁ、はあ、はぁっ」

一体どれだけ走って、どれだけ斬って、どれだけ傷付いたのか。
体は既に返り血と自分の血で、バケツをぶちまけられたように赤く染まっている。気持ちが悪い。
戦い、命を危機にさらされつづける時間は、恐ろしく長かった。
息で肩を上下させながら、あたりに気を配る。
今は何とか撒いた。けれど遠くないうちに見つかって、また殺しあうハメになるだろう。
悪鬼の気性そのもののような、重く荒々しい行進が近い。
自分を殺すためだけに、クォードは相当数のオークを放っている。
クォード帝国は、ライルを血眼で捜していると、レンネルバルトは告げた。
それほどまでに、デッドという女は、アライヴを恐れているのか。憎んでいるのか。
あの、顔の見えない白甲冑がそうであるように。

“テメェの存在は、この世にいらねえ”

不意に、白甲冑の言葉がよみがえる。
怨みを買った覚えがない以上、あれもアライヴへの、憎しみの断片であったのだろうか―――

ガサガサ、と背後から雑音。―――見つかった。
地響きのような鳴き声が鼓膜を震わせる。
そもそも、オークなどという圧倒的な体格差のある化け物を、生身の人間が何十体も相手にできるわけが無いのだ。
終わりの見えない闘争と逃走。
最初からこちらの敗北は確定していた。
それでも、絶対に諦めたくない。
何もかも元通りにはならないとしても、いとおしい故郷を救うための道が、開きかけている。
(こんなときに、アライヴが)
ティルの言ったような圧倒的な力を振るって、化け物どもを一掃してくれたらいいのに。
願うように、恨み言を零すように、心中でつぶやく。

(お前は…一体何のために、俺の中にいるんだよ)

「――――ッう、おあああぁぁあああ!!」
渇いた咽喉から、ありったけの気合をしぼり出して、幾度目かの死地へ飛び込んだ。
技巧も何もなく突進する。体力的にもそろそろ追いつめられ、もともとそう働く方ではない思考回路がほとんど停止していた。
太刀筋が鈍い。身のこなしもぎこちない。
これほど戦闘力が低下しているのに、まだ死なずにいられるのは、ひとえに白甲冑の命令のせいだろう。
並外れた巨体のパワーファイターたちは、白甲冑の言いつけを律儀に遵守し、手加減せざるを得なくなっている。

けれども、元来本能のままに生きる魔物に、その命令はかなり酷であった。
人間を喰いたい、その基本的欲求のうちのひとつを封じこめておけるほど、オークの意思は鋼ではなかった。
命令者が視界に届くところにいないことで、その欲望は歯止めを失っていった。
ついさっき首を刎ねられて無残な最期を遂げた同胞を記憶の片隅へ追いやり、一時の快楽に身をゆだねることを選んで、目の色を変え始めている。
「!」
緑がかった皮膚の手が、ライルの首へと伸びる。彼の首ごと体を持ち上げた。
「…!……!!」

じたばたと暴れるが、足が空気を掻くだけで、何の意味もない。
圧迫されて、どんどん酸素が足りなくなる。
このままニワトリのように縊り殺されて、いくのか。
目の前が少しずつ真っ暗になって、

―――――ずっと遠くに、知らないけれどどこか懐かしい、後ろ姿が映りこんだ。

黒く長い後ろ髪が、激しい風に吹かれ暴れている。
こちらに目線をくれることもなく、きっと気にとめもせず、ひたむきに前だけを――――


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har