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ミッシング・ムーン・キング

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1 出逢い―遭遇、そして、衝突―



 真っ暗な広野の静寂を切り裂くように、タイヤが地面を駆ける走行音が響き渡る。

 電動モーターバイクがデコボコの悪路に関係無く、砂煙を巻き上げて走行していた。バイクのヘッドライトから照射される一筋の光が、先行く方向を照らし出す。

「たくっ。せっかく遠出したのに、目当ての物も良い物も無かったな……」

 バイクの運転手―青年―は独り言を洩らしながら、ゴーグル越しでエネルギー残量メーターに視線を移すと、エネルギー残量メーターは底を打っていた。

「ヤバイな……そろそろ切れ始めている。家までもってくれるか……」

 そう言うや否や、ヘッドライトの明かりが弱くなり消えかかり始めた。

「おいおい。こんな所で消えないでくれよ。家まで、あともう少しなんだから……」

 だが、その願いは儚くも散ることになる。
 ヘッドライトは完全に消灯し、バイクのスピードも段々と遅くなっていくが、青年はバイクを止めることはなかった。

 真っ暗闇の道を灯りも無く走るのは大変危険ではあるが、大したスピードは出ていないし、誰もいない世界。

 注意深く運転すれば大丈夫だろうと判断し、行ける所まで行こう、
 と思った矢先――

「うわっ!?」

 暗闇の中、突然目の前に“人の姿をした物体”が視界に入り――
 考える間も無く“人の姿をした物体”と衝突してしまった。

――ガシッン!――

 鈍い音と共に、ぶつかった衝撃で青年はバランスを崩し、バイクから振り落とされ地面に転がり滑る。バイクも青年と同様に横転した。

「痛っ……あっ…な、なんだ……一体?」

 ズキズキと鈍い痛みが青年の身体に走る。

 かけていたゴーグルの片方のレンズにヒビが入り、服は擦り破れ、膝や肘に擦り傷を負っていたが、骨折などはしてない。
 スピードを出していなかった為に、幸い軽傷で済んでいるようだった。

 青年はゆっくりと起き上がり、ゴーグルを外す。そして、バイクと衝突した物体を確認しようと辺りを見回した。

「あれか……?」

 真っ暗闇の中、青年から五メートル先ほどに、人と思わしき物体“少女”が地に横たわっているのを見つけた。

 少女の髪は乱れ、そこら中に転がっている岩と同じように、ピクリとも動かない。

 その姿を目にした途端に、青年が感じていた痛みはどこかに吹っ飛んでしまい、血の気はサァーと引く。そして、動悸が激しく波打つ。

「な、なんで、こんな所に人が? てかっ、どうして、こんな所に?」

 ただ動揺するしかなかった。
 これから何をするべきか、どうするべきかと――

 埋没?
 逃走?
 失笑?
 幻想?
 などが頭の中を駆け巡るが、

「イヤイヤ、そんなことを考えている場合じゃない!」

 青年は人が持ち得る良識により、それらの愚考はダメだと判断し、その考えをかき消すように何度も首を横に振った。

 とりあえず青年は少女の元に駆け寄り、大きな声をかけた。

「おっ、おい! 大丈夫か? おい!」

 辺りに響く青年の呼びかけにも少女は、ピクリとも動かない。

「おいっ! しっかりしろ!」

 体に触れ、揺り動かそうとしようとした――その時だった。
 少女は目を見開き、ガバッと起き上がったのだ。

「どわっ!」

 突然の動作に青年は、思わず仰け反り尻餅を打った。

 そして何事も無かったかのようにスタスタと歩き出す少女を、唖然として口をあんぐりと開けたままで窺うしかなかった。

 しかし、少女は十歩ほど歩いた後、

――バタンっ――

 と、その場に倒れた。

「えっ! お、おい!」

 青年は慌てふためきつつ少女の元に再び駆け寄り、少女の容態を確認すると、

「スゥ……スゥ……」

 安らかな寝息を立てていた。

「えっ! ね、寝てる……のか?」

 何となく少女の頬を人差し指で突くと、プニッと柔らかな弾力が伝わる。

 少女は、それに気にすることなく睡眠が続く。
 そんな少女の様子に、青年はただただ呆気に取られるしかなかった。

 誰もいないはずの広野で、一人の少女と遭遇。
 そして、その少女とバイクで衝突したにも関わらず、少女は何事も無く眠っている。

 常軌を逸する出来事と非常的な状況だけに、今もまだ青年の心臓は、いつ爆発してもおかしくない程に激しく鼓動を打っている。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 少し平常心を取り戻すと、これから何をするべきか、どうするべきかを考えた。
 そして青年は大きく息を吐く。

 少女をこの場に放置する訳にはいかず、ましてや撥ねてしまった責任も有ってか、

「とりあえず俺の家に連れて、手当てなり、様子を見たりでもするか……」

 寝ている少女に聞かせるように大きめの独り言を呟やくと、まずは倒れているバイクを起こしに行った。